森繁久彌さんと高倉健さんの対談から。
進行のアシスタント役は樹木希林さん。
俳優として何本もの映画、TVドラマに出てキャリアを重ねると、電車に乗らなくなり、レストランも
個室または閉店してから、床屋さんも個室になるという。そうすると必然的に、一般の人と触れ合う
機会が少なくなる。
「電車の中や、レストランで見かける人の表情、しぐさを勉強する機会が減ることは残念。街の中で
見かける人達のああいうところが面白い、あれを身につけよう、と思っても出来ない。自分の視野が
どんどん狭くなってくると、観客の皆さんが納得する演技が出来なくなるのではないだろうか」と語る森繁さん。
床屋も個室へ行く習慣になっている高倉さんは、時々、若者が行く料理店のカウンターに座り背後から聞こえてくる若者の声を聴く。そこで若い世代の動向を知ることが出来るのだという。
台東区三ノ輪駅から土手通りを浅草に向かって歩くと、“土手の伊勢屋と”いう有名な天ぷら屋さんが
ある。建物は登録有形文化財(建造物)となっている。
お店の外にはいつも開店前から長い行列が出来ている。私も一度食事をしたことがあるが、外で待つ
人の為に椅子も何脚か用意されており、日差しの強い日には日傘も貸して下さる。
そのお店に、樹木希林さんが何度か食事に来られたらしい。娘婿の本木さんも誘われて一度来店したとのこと。それほど広くない店内のテーブルとテーブルの間はとはとても近い、誰であるかがすぐにわかるし、隣の席の会話も聞こえてくる。本木さんはそのような場所は苦手であったらしいが、TV番組で「天丼はとにかく見事なおいしさで、忘れられない味!」と話されていた。
樹木希林さんの演技は普段の生活から自然にきているのだろうか。
NYで知り合った帽子のデザイナーがいる。彼は用事がなくても毎日街へ出かけ、どこかに腰をかけて
道行く人を眺める。目にとまった人の人生をちょっと想像し、この人にはこんな帽子が似合いそう、
あの人にはこんな帽子を被ってほしいという思いを巡らすのである。
この対談で心にのこった森繁さんの言葉がある。
「俳優は朝顔の花だ。朝顔の花はその日一日で終わる。明日はまた違う花が咲く。
今日は今日の花が咲く、そういうことが芝居である」
この言葉は俳優さんに限ったことではないと、私は思う。
「今日は今日の花が咲く」 私はこの言葉に深い優しさを感じるのである。
この夏、長いあいだ目を向けることがなかった朝顔の花を観察したい気持ちになった。
(朝顔:一度しぼんだアサガオの花が、翌日にまた開くということはない。花の寿命は一日かぎりだが、株の調子が良ければ毎日のように、次から次に新しい花を咲かせる。ただし、夏を過ぎて涼しくなってくると、翌日まで花が咲き続けることがある。これが、翌日にまた開いたように見えることもあるかも知れない。ネットより)