短編映画 “フィーリング スルー”(18分)の、メイキング映像(24分)から。
映画監督であるダグ・ローランド氏のある日の経験。
2011年の夏、夜遅くにマンハッタンのイースト・ヴィレッジを歩いていると街角に立つ一人の男性が
目に入った。彼に近づいて行くと、紙を持っていることに気づく。そこには「通りを渡るのに助けが
必要、私は盲ろう者です」と書かれていた。コミュニケーションを取ろうと試みるが、うまくいかない。トントンと身体に触れると、彼は持っていたメモ帳に「バス停まで行きたい」と書いた。
ダグは彼をバス停まで連れて行き、一緒にバスを待った。
バスを待つ間、ダグは彼の手の平に文字を書いて会話をした。
彼の名前はARTZアーツ(後に、アルテミオ 呼称アーティと判明)。
アーティはカリスマ性があり、率直で、心の温かい人だった。
ダグはその日のアーティとの出会いにインスパイヤーされて18分の短編映画を作成することにした。
内容は一人の少年と盲ろう者の出会い。
7年後、映画制作をするにあたってアーティと連絡を取ろうとした。彼の存在は国立ヘレン・ケラー・センターの協力ですぐにわかったものの、本人との連絡手段がみつからない。何ヶ月も探し続けた
末に、役者はオーディションで選ぶこととなった。
オーディションで選ばれたのは、ヘレン・ケラーセンターの食堂で働くロバート。
彼は聴覚障害者として生まれたが、視力は1.0あった。俳優を目指していたが、30才頃から視覚も失われ始め、俳優を目指すことは困難だと諦めた。現在はほんの少し視覚がある。自分が俳優として
選ばれたことを「一生に一度の経験」と悦び、これからもまた俳優をやりたいと希望を持っている。
撮影開始の前日にアーティの居場所がわかったが、会いに行くのは撮影が終了してからとなった。
アーティは彼の両親と暮らしていた。部屋の奥からアーティが歩いて来るのを見た時、彼の内面から
出るエネルギーはあの夜と同じだと感じた。あの日と同じようにダグはアーティの手のひらに文字を
書き、アーティは紙に文字を書いて会話をする。ふたりは友達になった。
ダグとの再会で、アーティは「俳優になる勉強をしようと思う、作家にもなりたい、ヘレン・ケラーのように」と語る。
ヘレン・ケラーセンターのスタッフの一人の言葉が印象的である。
「誰であるかは問題ではない。大切なのはふたりの繋がりです」
一期一会だったかも知れない出会いが、彼らは7年後に再会して友達になった。
ダグがアーティにインスパイヤーされて映画を作成し、アーティがダグにインスパイヤーされて新しい目標と希望を持つ。
この映画に携わった多くの人が自分の可能性と将来への希望を持ったのである。
ひとつの出会いがたくさんの人の心を豊かにする、このメイキング映像に出会えて嬉しい。