“午前4時にパリの夜は明ける”のラジオパーソナリティーは50代女性である。

とても魅力的な人である。

 

この映画を観て、自分の高校時代のことを思い出した。

 

私が深夜ラジオを聞き始めたのは中学2年生からである。

受験勉強と銘打って電力と冬は灯油も無駄遣いしていた。

 

午前0時頃からは東京の放送が流れるが、その前はローカル放送だったような気がする。

地元の高校生が曜日ごとに番組を持っていた。15分か30分だったと記憶している。

 

高校1年生の時、中学の時の同級生がそのうちの一日を担当していた。どういう経緯で彼女がラジオの仕事をしていたかは忘れた。彼女とは特別に仲が良かったわけではない。高校も別々の学校へ進んだが、突然私の家へ遊びに来ることがあった。招待されて彼女の家へ行ったことも一度だけある。

 

彼女の部屋の壁にはたくさんの喫茶店のコースターが貼られていた。私はもの珍しそうにそれを

眺めた。「私、ラジオやっているのだけど、一度、遊びに来ない?」と誘われたのは、その時だった

と思う。

 

ラジオブースの中に入り、彼女に何か質問されて、とてもつまらない事を言った記憶が鮮明に残って

いる。短い時間だったと思うが緊張して固まっていた。元同級生は余裕ですらすらと番組を進めて

いた。

 

その収録は夜だったので、終了してから放送局の車で家まで送ってもらえた。黒塗りの車の後部席に

ひとり座り、局の専属のドライバーさんに送ってもらったのである。まるで重役気分である。車の中でも私は緊張していた。

 

その日のことは私にとっては忘れたい過去のひとつであったが、「午前4時に〜」の映画を観て思い出してしまったのである。

 

元同級生は中学のクラスで目立つ方ではなかったが、声と喋り方に特徴があり、それがとても女の子らしかった。その彼女が人気のパーソナリティーになっていたとは、想像もしていなかったことである。

 

高校を卒業してから深夜放送を聞くことはなくなった。

 

ラジオの人生相談を聞いたことはない。映画“午前4時に〜”の中に出てきた深夜放送の人生相談者は

38才の女性と10代の少女、どちらもシリアスな内容である。

 

映画の中でパーソナリティーの女性が、相談者からの電話を取り次ぐ仕事を説明するシーンがある。

 

「必要なのはリスナーとつながるだけでなく、共有に値する言葉を選び、受け止め、電波に乗せ

られる人。真実を感じ取る力も必要」

 

難しい仕事である。

 

トム・ハンクス、メグ・ライアン主演映画「Sleepless in Seattle めぐり逢えたら」この映画にも

ラジオの人生相談が出てくる。子供が相談者なので、内容は可愛らしい。でも、本人にとっては重大な

ことなのである。

 

どちらの映画でも、パーソナリティーの声は低いトーンで話し方が落ち着いている。

独特の雰囲気がある。

 

人生相談は友人同士でも難しい。友人同士だから難しいという点もある。

顔の見えない匿名での相談だからこそ、本心が言えるのかも知れない。