1981年、ミッテランが大統領に選出された年、50代のエリザベートは夫に去られ、ふたりの子供と暮らすことになる。
専業主婦だった彼女が得た仕事は、ラジオの深夜放送の中での電話の取り次ぎ。
かかって来た電話をパーソナリティーにつなぐ仕事である。
ある日、深夜放送で出会った行くあてのない少女タルラを自宅に招き入れる。
自分の生活が厳しい状況なのに、同じ年頃の子供がいる親としての優しさのように思える。
慣れない仕事で失敗して落ち込み、心を寄せ合ったつもりの男性との仲も思うようにならず、
前半のエリザベートは泣いてばかりいる。
そんな時、我が子と同年代のタルラの一言になぐさめられるのである。
時は1984年になり、エリザベートは深夜放送の仕事に慣れ、図書館での仕事もしている。
恋人も出来た。
1988年、ふたりの子供は自立し、エリザベートは長年住んだアパートを処分して、恋人のアパートへ引っ越しをすることを決める。仕事も私生活も充実し、エリザベートは美しい女性になった。
自分に自信がなく、悲しみと不安で泣いてばかりいた女性が、時と共に強くなり、恋人に出会い、
魅力的な女性として描かれている。
エリザベートの住まいはパリ15区にある高層アパートである。今までのフランス映画ではあまり
見ない光景だと思う。15区には1969年〜1972年に高層ビルがいくつも建築されたとのこと。
家族の中に他人が入ることで変わる空気。他人が関わることは個々の成長に必要なことであるかの
ように思える。
1981年から1988年まで、夫が家を出て行ったこと以外は特に大きな出来事はないが、仕事を
すること、他人と接することで、それぞれが皆変化していくことが見られる。
最初は弱そうにみえたエリザベートであるが、実は柳のように強かったのだろうと思う。
泣いているからといって必ずしも弱いわけではない。
それほど多くのシーンに出てくるわけではないが、深夜放送のパーソナリティーであるヴァンダの
存在感が凄い!
私の人生にも強烈な存在感のある方が現れたことがあるが、その後の私の考え方、出来事の見方に
多大な影響を与えている。
あたりまえの事かもしれないが、大小に関わらず日々の出来事への向き合い方が自身をつくるの
だなあ、と思わされる映画であった。
主演はシャルロット・ゲンズブール。監督が次のように語っている。
「父がセルジュ・ゲンズブール、母がジェーン・バーキンですから、平凡な人生、平凡な生活を
まったく送っていませんし、経験したこともないはずです。ただ、母親、家族、育っていく子どもたちというエリザベートが直面する問題に何か感じるものがおそらくあったのではないかと思います。
大変素晴らしい演技でした。」
シャルロット・ゲンズブールの他の映画を観たことはないが、ぜひ観てみたいと思っている。