ある時期から、私には物欲がほとんどなくなった。
2年前の引っ越しの際、ほとんどの衣類と靴を寄付した。
寄付したそれらは過去数年にわたって使用していなかった
ただ保存しておいただけの物が多かった。新品同様の物もあった。
気に入った物は同じ物を数枚買い、くたびれるまで着る、履く。
当然、それらは処分した。手元に残った物はごくわずかである。
大きめのダンボール箱1個あれば私物はその中に納まるくらいだ。
以降、洋服や靴などは必要に応じて買い求めようと考えているが、
出来れば数少ない現存の物で間に合わせたいと思っている。
洋服を買わない理由のひとつは、本当に欲しい物がないということである。
若い頃は「これがほしい!あれがほしい!」と物欲に溢れていた。
そして、ほしいと思った洋服も靴も、自分ではよく似合っていると思っていた。
だから欲しいという気持ちが強かった。
今、自分に似合うものがなかなかない。
年齢とそれに伴って変わってしまった体型や髪の毛のせいもあるだろう。
お化粧も変わった。
若かった頃、ソニア・リキエルのニットが流行していた。
その頃40代だった上司がよく身に着けていた洋服である。
彼女はとてもよく似合っていた。
「ソニア、いいですよね」と先輩に話しかける。
ソニアを着たかったわけではないが、上司があまりによく似合っていたので
思わず口から出た言葉である。ほしいと思っても私のお給料で買えるものではなかった。
「あなたにはまだ早いわよ。あれはね、仕事が出来て自分に自信のある人が
似合うのよ。生き方が顔に出るの!」と、笑う先輩。
その時に「ごもっとも!」と思ったお言葉であるが、その上司の年齢を
遥かに超えた今、その頃よりも更にその言葉の意味を痛感している。