「La femme et le TGV」(制作スイス2016 /日本語タイトル:女性とTGV)

30分の短編映画、主演は当時70歳のジェーン・バーキン。

 

TGVは「Train à Grande Vitesse」の略で、フランス全域と、フランス国外の各都市を結ぶ高速鉄道のこと。舞台はスイスのMon Bijou(モンビジュー)という小さな町。

 

27歳の映画監督が実際にあった出来事を新聞で読み、心を動かされて制作した映画。

フィクションの部分もあるが、ほとんどは事実に基づいている。

 

夫に先立たれ、一人暮らしのエリーズ。彼女は毎日、朝と夕方、家の前を通る時速300キロの高速列車に向かってスイスの国旗を手に振り続けている。それは、列車が好きだった息子が幼かった頃からの習慣であり、息子が大人になり家を出てからもひとりでずっと続けている。まだ息子がそこにいるように思えるという。

 

朝6時過ぎに小さな国旗を振ったあと、エリーズは自転車に乗って自分の店がある街まで出かける。パン屋を経営しているのだが、働き手が見つからず、現在はパンではなく、チョコレートやお菓子を売っている。お客は限られた常連だけ。殺風景な店内にエリーズはひとり座り、お客を待っている。

 

ある日、庭で列車の運転士・ブルーノからの手紙を見つける。そこには、エリーズへの感謝の言葉が綴られていた。

 

それから二人の文通が始まり、エリーズは顔も知らない相手に、恋心を寄せるようになる。

 

エリーズの誕生日に息子から贈られたものは老人ホームのパンフレット。「もう楽に暮らしなよ、友達もできるし」という息子に「私の人生はこれからよ、楽しみたいの!」と彼女は

きっぱりと言い返す。

 

しかし、その日の夕方、列車は来なかった。落胆したエリーズはTGVに電話をし、列車の経路が変更になったことを知らされる。

 

転勤のため、チューリッヒからパリ行きの電車に乗るブルーノを見送りに行ったエリーズが見たのは、彼の横に座る妻らしき女性と子供。彼らはエリーズに向かって笑顔で手を振る。

 

駅のホームに呆然と立ち尽くすエリーズ。

 

数週間後、エリーズはひとりの青年を雇いパン屋を再開される。店内に焼かれたたくさんのパンが並べられ、外には開店を待ち構えたお客たちが列を作っている。

 

彼女は何かに吹っ切れたように活動をし始めた。自宅へ戻った彼女は、コンピューターの前でブルーノに手紙を書いている。今まで使っていた古いタイプライターはもうない。

 

「不思議なことに、私は人生にしがみついて、失うことを恐れていました。でも、人生はいつも目の前にあるのですね。どうぞ、お元気で。PS.人生初、ネットでメールを送ります」

 

エリーズの恋心が傷ついたあと、彼女はたった数週間で立ち直っている。ブルーノとの交流がなかったら、エリーズは列車が通らなくなった線路をただ眺めるだけの人生を送っていたかも知れない。

 

傷ついた以上に素晴らしいものを得たエリーズは、強くて素敵な女性だと思う。

 

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