東大入試・漢文(2013年)の書き下し文・現代語訳つくりました(速報版) 『三国史記』 | 吉田裕子(塾講師)の国語エッセー | 古典(古文・漢文)・近現代文学・歌舞伎・狂言

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”国語を学ぶことで、感受性と対話力を磨いたら、人生はもっと楽しい。”という思いのもと、ブログや書籍で情報を発信する他、定期的に「大人向け古典講座」を開催しています。予備校・高校・カルチャースクールの講師、ライター。

前回、東京大学2013年入学試験の古文の現代語訳をアップしましたが、
今日は、同じく東大入試の漢文(出典は『三国史記』)を訳してみました。

少々自信のないところもあるのですが、
その辺りは、赤本・全国大学入試問題正解の類の販売を待って、
再検討したいと思いますあせる

とりあえずの速報版として、
受験生の方などの東大入試分析の参考となればアップ


【 現代語訳 】

温達は、高句麗の平岡王の時代の人である。破れた上着を身につけ、世間を歩き回っていた。その時代の人は、彼を目にして「愚温達」と呼んでいた。

平岡王の娘は、よく泣くのだった。王は冗談で、「お前はいつも泣いて、私の耳障りである。お前など愚温達に嫁がせるべきである。」 王は娘が泣くたびにこのことを言っていた。

娘は十六歳になり、王は、高氏に嫁がせようとした。娘がそれに応えて言うことには、「大王(お父さん)は、いつも『お前は必ず温達の妻になれ』と言ってきた。今どうして前の発言を覆してしまったのか。つまらない人間でさえ発言を覆そうとはしない。ましてこの上なく尊い大王なら、なおさら(覆さないもの)である。故事にも『王者には戯れの発言はない』と言うものです。今、大王の命令は間違っている。私は、そのことをお受けするつもりはない。」 王は怒って言った。「お前の行きたいところに行けば良い。(温達の妻になりたければ、勝手になれば良い。)」

そこで、娘は、宮殿を出て一人で行き、温達の家に辿り着いた。盲人の母親にお会いし、礼をして、彼女の子(温達)がどこにいるのかを尋ねた。老いた母親は、「そう、我が息子は飢えに耐えられず、ニレの木の樹皮を山に取りに行った。長い時間が経ったが、まだ帰ってこない。」

王の娘はその家を出て行って山のふもとに至り、温達がニレの木の皮を背負ってやって来るのを見た。娘は、彼に、自分を妻にしてもらいたい旨を申し出た。温達は怒って急に顔色を変え、「うちに嫁いでくるなんて、若い女性のすべきことではない。(貧しく)人としての暮らしもままならないに違いないから。」 温達は遂には行ってしまって娘を振り返ることはなかった。

娘は、翌朝さらに温達の家を訪ね、その母子と詳しくこの結婚の話をした。温達は、あいまいな態度をとり、結婚すると言う決断をしない。母親が言うことには、「私の息子は大変身分が低く、(貴人であるあなたと結婚して)貴人の類になるには値しません。私の家は大変貧しく、当然(あなたのような)貴人が住むところとして適しません。」

娘が答えて言うには、「昔の人は言いました。『一斗の粟でもついて食べれば、ともに飢えをしのげる。一尺の布でも縫って衣服にすれば、ともに寒さを防げる』(『史記』にある言葉)と。つまり、もし心が通じているのなら、どうして豊かになった後に一緒になる必要があろうか、いやない。(貧しかろうが今すぐ一緒になって構わないのだ。)」 そこで、王の娘は金の腕輪を売り、田や家、牛馬、器物を購入した。


【 書き下し文 】

温達は、高句麗平岡王の時の人なり。破衫弊履して、市井の間に往来す。時人之を目して愚温達と為す。

平岡王の少女児好く啼く。王戯れて曰く、「汝常に啼きて我が耳に聒すし、当に之を愚温達に帰がしむ」。王毎に之を言ふ。

女年二八に及び、王高氏に下嫁せしめんと欲す。公主対へて曰く、「大王常に汝必ず温達婦と為れと語ぐ。今何故に前言を改むるか。匹夫すら猶ほ食言を欲せず、況んや至尊をや。故に曰く『王者に戯言無し』と。今大王の命謬れり。妾敢て祗みて承けず」と。王怒りて曰く「宜しく汝の適く所に従ふべし」と。

是に於て公主宮を出で独り行きて、温達の家に至る。盲たる老母に見え、拝して其の子の在る所を問ふ。老母対へて曰く、「惟れ我が息飢うるに忍びず、楡皮を山林に取る。久しくして未だ還らず」と。

公主出で行きて山下に至り、温達の楡皮を負ひて来るを見る。公主之と懐を言ふ。温達悖然として曰く、「此れ幼女子の宜く行ふべき所に非ず、必ず人に非ざるなり」と。遂に行きて顧みず。

公主明朝更に入り、母子と備に之を言ふ。温達依違して未だ決せず。其の母曰く、「吾が息至つて陋しく、貴人の匹と為るに足らず。吾が家至つて窶しく、固より貴人の居に宜しからず」と。

公主対へて曰く、「古人言ふ『一斗の粟猶ほ舂くべく、一尺の布猶ほ縫ふべし』と、則ち苟くも同心たれば、何ぞ必ずしも富貴にして然る後に共にすべけんや」と。乃ち金釧を売りて、田宅牛馬器物を買得す。




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