一九〇四年三月。
長男でなければ日本にいても意味がない世の中。
「自由の新天地」アメリカへ行こうと、大原幹三郎は、不衛生な船で命がけで渡米し、一生懸命に働いて働いて、日本から嫁いできた写真花嫁の佳乃と幸せな家庭を築きます。
写真を見ただけで結婚した二人でしたが、本当に愛し合い、互いを慈しみあい、
たくさんの子宝に恵まれます。
アメリカでは排日運動が高まり、二人は住んでいたカリフォルニア州を離れ、コロラド州へ。
多くの同胞は、「稼げるだけ稼いで日本へ戻ろう」と思っていましたが、
幹三郎は、故郷に錦を飾るために渡米したわけではなく、アメリカに根をおろし、この国で成功し、ひとかどの人物になることを目標として生きてきました。
アメリカに定住し、納税し、アメリカ社会に貢献することによって、白人社会に融和し、排日感情も薄まっていくのではないかと思い、真面目に生きてきた幹三郎たち。
しかし。
真珠湾攻撃の十日後、幹三郎は自宅に踏み込んできたFBIに連行され刑務所に。
長男は暴行を受け大怪我をさせられ、
真珠湾攻撃から約二カ月後、ルーズベルト大統領の署名した「行政命令9066号」－西海岸沿いの地域に居住する全日系人（＝敵性外国人）に対し、軍が立ち退きを命じる権限を認める－を受けて、五月七日に発令された「民間人排除命令49号」に基づき、
日本人たちは、何十年もかけて身を粉にして働いてやっと手に入れた家も、土地も、店も、家財道具も、すべての財産を没収され、収容所に収監されることになるのです。
夢見て渡った自由の新天地。
必死でまじめに生きてきた彼らを待ち受けていた過酷な運命。
そしてその子供たち、二世たち。
物語は、
日系二世である母親から、頭のてっぺんからつま先までアメリカ人であれ、と育てられ、
日本人であることのかけらもあってはいけないと厳しく育てられ、
そのことに反発し、日本に対する想いを密かにふくらまし続け、母に愛されていないとずっと思って生きてきた日系三世である四人兄妹の三番目の娘、ジュンコが、
母が亡くなった後、遺品の中に、彼らの祖父母がどうやって生きて、どうやって死んでいったかを、そしてなぜ自分はこういう風に生きたのかを書き遺してある美しいノートを見つけ、
自分のルーツを、
母親のルーツを確かめていくのです。
以前『最果ての子どもたち』を読んだときも辛かったですが、
自由を夢見て、新天地へと人々は旅立つわけです。
でもそこは異国の地。
もともと住んでいる人達が当然あって、憎まれたり、疎まれたり･･･
そんな中でもきっといつかわかってくれると、幹三郎は真面目に生きるのですが、
戦争はそんな彼らを翻弄し･･･
アメリカで生まれ育ち、日本語を知らない、日本人の顔をした母は、
アメリカで産んだ四人の子供たちに、小鳥の名前を与えました。
母の涙は、母の家族たちの「恥辱の日」に枯れてしまっていたのだと、
自分は愛されていなかったわけではなかったと、
母が書き綴った、祖父母や母の兄姉たちの辛く悲しい物語を読んでジュンコはようやく理解することができるのです。
母はこう書いていました。
「何者でもない者として生まれてきた小さき者が、何者かになろうとして懸命に努力し、結局、何者にもなれないまま死んでいったとしても、その人が生きてきた時間は、決して無駄なものではないのです。それらは宇宙のかたすみで、一瞬であったかもしれないけれど、確かに輝きを放っていた星たちなのです。わたしたちはみな、流れ星と同じように、空に輝いたあと燃え尽きて、流れ落ちていくのです。その営みを、その儚い運命を、わたしは尊く美しいものだと思っています。」
祖父母や、母たちはみな、名もない星たちであったけれど、
彼ら、彼女たちは、いっっときだけでもこの宇宙で輝きを放っていた･･･
アメリカの国旗には、星がたくさんちりばめられています。
大きな輝き続ける星でなくても、人は皆、一瞬だけでも輝きを放つ星たちであり、
ちっぽけな星たちであろうとも、その過酷な人生は、決して消えてはなくならない。
なぜならば、娘へと、孫たちへと、そしてさらにその子、その孫へと脈々と彼らの血はついえることなく流れ続けるのだから。
どんなちっぽけな星であっても、彼らが生きた時間は、決して無駄なものではないのだから。
悲しい物語でしたが、出会えて本当に良かったと思える本でした。
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