第八章 夏の終焉 スタートです


 私、岩永くん、そして愛子先生の三人での上五島行きだ。集合場所のフェリー前に集まった。今日はみんな顔つきが厳しい。笑顔もない。

 もちろん私も緊張してか昨夜はあまり眠れなかったくらいだ。少し風が出てきた。その風は何かが起きるような、そんな香りを運んできたような気がする。

『俺さ、いつもの場所に寄ってきたんだ。ひまわりさんがいるんじゃないかと思って。』

 岩永くんが私を見つめて言った。確かにそうだ。いつもの私なら行ったに違いない。でも今日は違う。

 今までとは何かが違うのだ。龍馬様に会うのは、事件が解決してからにしようと思う。そう、5年前から今に続く全ての事が解決してから彼には報告する。彼がやり遂げた偉業には足元にも及ばないが、私なりにやり遂げると決めたことだ。


 和音や永末さんは今だに日常が戻ってない。5年前からずっと苦しんでいる、愛子先生や岩永くん。愛する人を奪われ、その犯人が母親かもしれない高橋さん。
 私たちが動いた事で、事件も再び動いてしまった。私には事件を動かしてしまった責任がある。
 そう、あの日あの絵画を見つけてしまったときから、運命は動き出してしまった。必ず解決して、龍馬さまにいい報告をしないと。それまでは彼に会えない。

『ゆうこさんが高橋優子さん本人と確認したら、すぐ吉武刑事に連絡するわよ。
勝手には動かない事。岩永くん、ひまわりさん、いいわね、約束よ。』
 愛子先生が私たちに釘をさす。私たちは、一応『はい』と返事をした。たくさん勝手に動いていたから、それは反省してます。
 私たち三人は運命のフェリーに乗り込んだ。

 その頃、吉武刑事たちは高橋優子の行方が分からず、かなり焦っていたのだった。名古屋駅で撮られた高橋優子の防犯カメラの映像を繰り返し見ていた。
『一体、電車に乗ってからどこで降りたんだ?』
 防犯カメラから、近鉄電車に乗り関西方面に向かったまではわかったが、降車場所がなかなか判明しなかった。
『伊勢神宮でも行ったんですかね。捕まりませんようにって、お参りしてんじゃないですかぁ。』
 疲れが蓄積され気分転換にと、同僚が少しおどけたように言った。
『バカか!』
 頭をコツっとつついた。
『どこかで降りて乗り換えたか、交通手段を変えたか、その場で潜伏しているか、一体どこに向かったんだ。』
 吉武刑事の疲れは怒りになり、イライラはピークに達しようとしていた。
 そんなやりとりをしている中、朗報が舞い込んだ。
『足取りがわかったぞ!降りたのは大阪だ。そこで新幹線に乗り換えてる。最終降車もわかったぞ。長崎だ。』
『長崎。』
 吉武刑事たちは慌ただしく動き出した。
 駅の防犯カメラの映像を確認していた為に、かなりの時間が費やされた。無人駅もあれば大勢の人間が乗降する駅もあるのだ。その中から、高橋優子の姿を捜すのは大変な作業だった。

 長崎からの足取りを探る為に、吉武刑事の上官が指示をする。刑事たちに緊張感が走っていた。聞き込み先を個別に指示をして、吉武刑事たちは長崎駅を指定された。
『しかしなんで長崎なんだ?危険じゃないか?』
 吉武刑事たちは長崎駅に向かう為に車に乗り込んだ。
(やはり、ここで事件が起こりここで解決するのか?駅からどこに向かったんだ?)
 吉武刑事たちは高橋優子の行き先を探す為に長崎駅へと車を走らせる。
(事件の起こった場所。まさか。)
 長崎の街は曇り空。風が木々を揺らすのが車中ごしに見える。
『雨か、嵐か。できれば、静かに終わってくれ。』
 吉武刑事は呟いた。


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