その頃、和音は名古屋の病院で高橋大樹さんと病室で過ごしていた。
あれから、幾度となく彼は和音の病室へと足を運んでいたのだ。なぜこんな事になってしまったのか、二人で意見交換を兼ねてのお見舞いだった。
お互いに、辛さや悩みを言葉に出すことで、必死に精神を保っていたのかもしれない。
殺されかけた高校生と、その犯人かもしれない母をもつ大学生。それはあまりにも残酷な現実だ。心を正常に保つにはかなりの苦労であろう。
『私、何か大事な事を見落としている気がするの。』
『何かって?』
いつものように、和音はベットに座り、大樹さんはその横の椅子に腰掛けている。
『何かがひっかかってモヤモヤするの。』
和音は気になることが出始めていた。その理由を知りたかった。
『ところでお家の様子はどう?』
和音は自分を突き落とした犯人かもしれない相手の息子であろうとも、その家族のことを気にかけていた。ある意味、彼も被害者なのだ。
『いつも刑事がうろうろしてるよ。家のことは家政婦さんや親戚の人が代わる代わるきているから、何もする事はないよ。父はいつも帰りが遅くてさ、酒浸りになっているよ。』
そう言い大きくため息をついた。高橋家は環境が一変してしまったのが伺える。
『何でこんな事になったんだろう。』
缶コーヒーを飲みながら呟く。その様子を和音はだまって見つめていた。
『どうしても引っ掛かっている事があるの。明日、私に付き合ってくれない?実は外出届けは出してあるんだ。もちろん刑事さんも付いてくるけどね。』
和音は何か腑に落ちない思いを抱いていたのだ。
『もちろんいいよ。でもどこへ行くの?』
『引っ掛かっている事を確認したいの。場所は今は秘密よ。』
いたずらそうに笑う和音。
二人は見つめ合って笑った。大樹さんにとって、和音と過ごす時間だけが心休まるときになっていた。
第七章 解決への扉 完
次回、第八章 夏の終焉 に続く
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