玄人裸足(はだし)の素人落語家、あっち亭こっちの演芸会。
元マガジンハウスの同僚、
雑誌『クロワッサン』の校了責任者(副編集蝶)だった
長田衛さんこと芸名、あっち亭こっちさんから、
演芸会のお誘いのメールがきました。
呼びかけのスタンスが奥ゆかしくて気持ちいい。
こういう文面でした。
★★★
長田です。
お忙しいでしょうから、無理はなさらないでください。
2月28日はわたしの勉強会、お江戸両国亭、午後1時開演、
ゲストは宝井梅湯、紺野相龍です。この会はわたしの誕生会とします。
図々しい限りです。
………
前日、2月27日に次のようなメールを彼に送りました。
★★★
長田さん。塩澤です。メールを拝受。
明日、安倍総理大臣の止めるのも聞かず、総決起大会、やりますか。
午前中、神田にいるので、やるなら参加します。
死ぬまで戦いましょう。 塩澤
………
返事が来た。
★★★
塩澤さん、こんばんは。
明日28日は開催します。
どうぞよろしくお願いいたします。
これが集まりの全貌。場所は両国にある両国お江戸亭。
席の数は百くらいか、いつもは満員になるのだが、
さすがにこの日は空席が目立った。
長田さんはここで
落語を一席。
古井由吉さんが亡くなられたので、まず、その話。
古井さんが書いた「杳子」という小説をずっと「杏子」だと思っていて、
図書館で恥を書いたという話。
杏は植物でアンズのことだが、杳は遥に通じる、
はるかなとかくらいという意味。
この本も単行本が沈黙図書館にある。
………
開演は一時からで近くの公園で本を読みながら待つ
昼は両国に行ったときにいつも寄る立ち食いそば屋で
かき揚げソバの大盛りを食べた。
文殊という店、美味しかったが四時半に歯医者に予約していて、
勉強会の終演までつき合っていると時間に間に合わなくなる。
それで三時前に中途退席。家に帰って歯磨きして歯医者へ。
焦っていたせいか、歯医者さんから
「歯の裏がチャンと磨けてないね」と怒られた。
★★★
そのことはとてもかくても、なのだが、
長田の勉強会には頭が下がる。
そもそも、わたしは本を書いたり、作ったりするのは好きだが、
それにつづく、本を売るためや宣伝のための
イベントやサイン会やキャンペーンをやるのは嫌いなのだ。
体質の中にプロデューサー気質みたいなモノがほとんどない。
人の例を挙げると、石川次郎さんやソトコトの小黒などは、
そういう付帯イベントが編集作業と一体になって発想している。
長田さんも多分そうで、彼はこの集まりを、今回で29回目というのだが、
ながく、辛抱強くマネージメントしながらつづけている。
話も昔は素人っぽかったが、最近は〝玄人の素人〟になってきた。
これは、素人なりに玄人だという意味。
★★★
世上に長田さんは素人落語家と思われているが、
本当はもうひとつのプロの顔を持っている。
それは校正の専門家である、ということ。
彼のマガジンハウスでの最終ポジションは
雑誌『クロワッサン』の校了責任者だったが、
これは船でいうと、「機関長」という意味。
機関長というのは船長とはまた別の権威なのである。
雑誌の機関長というのはその雑誌の印刷物としてのクオリティを
保持する役目。実は彼はこのことのプロなのである。
………
「編集者は渡り廊下を歩いている人間みたいなモノ」
そういったのはマガジンハウスの最高顧問だった木滑さん。
渡り廊下は作家になったり、プロデューサーになったり、
会社役員(経営者)になったりする道に通じているのだが、
もうひとつの選択肢に「校閲の専門家」というのがあるのだ。
長田さんはそういう道を選んだ人、
三十代の後半に大病して、取材➡執筆の編集記者をあきらめて、
いったん総務部に異動し、自分を立て直したのだという。
★★★
わたしも自分のところの本の校閲を長田さんに頼むことにした。
格安で請け負ってくれた。
………
校閲は広い教養が必要である。
自分なりの人生を生きるために一生懸命に勉強したのだろう。
長田さんと話をしていると[不屈の魂]という言葉を思い出す。
どの人にも、言葉にしない人生の物語がある。
わたしの役目はそういう人たちの人生を出来るだけたくさん記録すること、
そう考えている。
今日はここまで。
★★★
一昨日(土曜日)の日本経済新聞の書評欄に
拙著『昭和芸能界史』の書評が載っているみたいです。
わたしもまだ読んでない。アマゾンが売り切れ・入荷待ちになってしまったから、
きっとみんなが買いたくなるような書評を書いてくれたんだと思います。
日本経済新聞さん、ありがとうございます。
Fin.