「あたしが撮られたアダルト動画は3本、でもそのお金は全部、母親が持って行った」
「うん」
「ろくに陽の当らない部屋の片隅で、もう死のうって思ったんだ」
「・・・」
あきねの話は、想像以上にきついものだった
あきねが語るあきねの話は、及川が語るあきねの話とは違うよな
そこには自分の想いがあるんだから
人間としての想いが・・
俺は、あきねの話を聞きたいと言った自分に、少し後悔していた
「ある日、アダルト動画を撮ったレーベルの男に言われたんだ・・」
「なんて?」
「次からは別のレーベルに移ってもらうからって」
「どうして?」
「なんか同じレーベルだと客が飽きるから、3本目までしか売れないらしいんだよ」
「・・・」
「で、名前も変えて、顔もいじって、そっちに行けってさ」
「顔って、整形?」
「うん、そのとき母親に言われたんだよ。整形の費用は、立て替えといてやるって」
「・・・」
「大人になったら、あんたが稼いで返すんだよって」
「・・・」
「母親はあたしにそう言いながら、あたしの移籍料の金勘定をしてた・・」
「・・・」
俺はいつのまにか、声が出なくなっていた
「このときかな」
「え?」
「あたしの感情が変わったんだ。今でも、はっきり覚えてる」
「変わったって?」
「うん。『死のう』から『殺してやろう』に変わったの」
「・・・」
「この女殺すまでは、あたし死ねないって」
「・・・」
声が出なくなっている俺を見て、あきねが不安そうな顔をする
「みちあき、大丈夫?」
「あぁ」
「今さら、こんな女嫌だって言われても、あたし、困っちゃうんだけどな・・」
あきねはそう言って、窓の外に目をやった
以前のように、泣いたりはしなかった
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