道の駅こぶちざわから見た空が曇天だったので、予定を繰り上げ、翌日に行くはずだった「キース・ヘリング美術館」を訪ねました。こうゆう時に屋内の美術館は便利ですね。
キース・ヘリングは、1980年代に米国を中心に活動した現代美術のアーティストで、アンディ・ウォーホルやウィリアム・S・バロウズなどとも交流がありました。
対象を図案化したような独特の技法で描かれた版画を目にした方も多いと思います。最近ではユニクロのTシャツにも登場しましたね。
この美術館の館長、中村和男氏は医薬の世界で成功したビジネスパーソンで、87年にヘリングの絵画を購入したことをきっかけに作品の収集を始め、そのコレクションを公開するため2007年に美術館が建設されました。
幾何学模様の不思議な空間に引き込まれるように展示室へ進みます。奥には「誕生」を象徴するような、はいはいをする赤ちゃんが掲げられています。
31歳で早世したヘリングのまだ若い晩年の作品「アポカリプス (黙示録)」はヘリングの22点の版画と、彼が影響を受けたバロウズの10遍の詩で構成されています。
ヘリングが死の2週間前に完成させたという最後の作品「オルターピース (祭壇画)」は、彼自身の追悼式で聖堂に奉納されました。
80年代前半にNY地下鉄のプラットフォームで即興の絵をチョークで描く「サブウェイ・ドローイング」で注目を集めた当時のヘリングの写真です。
この美術館は、それ自体がコンテンポラリーアートの作品と言えるような工夫が随所に見られ、来館者を次の展示への期待と共に導いてくれます。
屋外に展示された作品は、建物と一体となっているように見えますね。設計した北川原温氏との時を超えたコラボレーションと言えるかも知れません。
ふたつのハート型を組み合わせ、片方には鏡面仕上げをしたステンレス板を用いて、空の様子を映し出しています。
ガラスのスリットを入れて、次の間にある作品の一部が見えるようにした扉や、展示室に至る通路にも作品を配したレイアウトが非常にユニークです。
アクロバットやブレイクダンスの動きを捉えた作品は、軽快で躍動感があふれています。
左手奥の「無題 (ピープル)」は80年代によく用いられたパステルカラーを曲線的に塗り分け、その上に黒い線でひと型を描いたパズルのような作品です。
カラフルで見ている人を楽しい気持ちにしてくれるのもヘリングの特徴であり作風ですね。彼の場合、芸術というよりアートと呼んだ方が合っている気がします。
彼が始めた、自分の作品をグッズとして販売する「POP SHOP」の方向性は、かつて美術館では作品を紹介するか模写の形で売るだけだったギフトショップのあり方に新しい展開をもたらしました。
今では美術館のギフトショップにさまざまなグッズが並べられていますね。ヘリングの作品はその個性がグッズ化に向いていたとも言えるでしょう。
ヘリングは80年末から翌年初めにかけて17点のドローイングを制作し、それはやがて「ブループリント・ドローイング」と呼び習わされるようになりました。彼の最初期の作品です。
人間の想像力はコンピュータで
プログラムできるものではありません。
私たちの想像力は
人間が生きていくための最大の希望なのです。
キース・ヘリング 1983年
さて、空は明るさを増してきましたが、山はまだ雲をかぶっています。午後の予定は変更して、峠の釜めしを頂いた後に、諏訪大社の前宮を訪ねることにします。
[カバー写真]
ホテルのロビーに展示されていた御柱祭で用いられる太い曳き縄、諏訪大社四宮の式年祭で「山出し」として樅の大木を逆落としにする、上社下社の「木落し」が有名ですね。
豪快で勇壮な祭りですが、死者も頻発する危険な行事でもあります。7年ごとに行われ、22年の4-5月に実施されました。