秋場所の初日、実況は吉田アナだったと思いますが、宮城野部屋の力士に感染者が出たため、部屋の力士が出場できなくなったことを報告していました。趣旨としては「白鵬も不出場になり、照ノ富士との横綱対決が見られないことを惜しむ」ということだったと思います。

それについて水を向けられた向正面解説の舞の海は、のっけから「白鵬にとっては良かったんじゃないですか」と厳しい調子で受けたので、思わずハッとしました。

「白鵬はもう15日間相撲を取る力がないと思います」と続ける舞の海に、吉田アナは「過激な発言」と狼狽を隠しきれない様子でしたが、舞の海の思い切ったコメントに込められた「綱の重み」に対する彼の思いを感じた次第です。


かつて横綱は、先場所で優勝したその次の場所、初日から二連勝していても、三日目に「綱を務める力がなくなった」と潔く引退したものでした。そこには「綱の神聖さを穢してはならない」との角界に共通して流れる峻厳な基準がありましたね。「退き際の美しさ」が重んじられた時代でした。

「鬼の形相」で自身最後の優勝を遂げた貴乃花、横綱が長期にわたり連続して休場するようになった最初のケースは彼なんですが、横綱には「地位保証ルール」があり、何場所休場しても番付は下がらない訳です。

最近では鶴竜や稀勢の里がこのルールの恩恵を受けて、連続休場で「地位保全という無意味な延命」をしましたね (結局、貴乃花のような「最後のひと花」を咲かせることもなく、長い間休んだ挙句、追い込まれての引退に終わりました) 


これが大関なら、ひと場所負け越すと「かど番」になり、ふた場所連続すれば「大関陥落」になりますから、連続休場は即「陥落」を意味します。

番付の制度は相撲の根幹であり、それゆえに力士は故障を抱えていても、どんなに無理をしても本場所に出場しようとするのですが、横綱には「降格」は適用されません。

先場所の千秋楽、白鵬が照ノ富士を破って全勝を決めた時、ひとりの相撲ファンとして、暗澹とした気持ちになりました。これで白鵬が「まだやれる」と考えて、現役に留まることを怖れたのです。


最近の白鵬は「ふた場所にひと場所は休場」を繰り返し、年間の勝利数で言えば、完全に「負け越し」でした。大関以下のルールに当てはめれば、今ごろは「序二段あたりでウロウロしている力士」に成り下がっていたことでしょう。

じっくり休養して体調を整え、ベストコンディションの時だけ出場し、序盤で負けたら怪我を理由に早々と休場、負けねば幸い出場を続けるのでは、怪我や故障を抱えながら闘う大関以下の力士は、まったく「イイ面の皮」です。

その意味では、栃ノ心や照ノ富士、宇良のように大きく番付を落とした中から再び勝ち上がり、上位に戻ってきた力士が増えてきた今は、相撲協会と横審にとって、横綱だけを別格視する「横綱の地位保証ルール」を変更する(=無効化する)良い契機だと思います。


力士の意識も変わりました。大関から陥落してなお土俵に上がったのは霧島からだったでしょうか。当時は異端な振る舞いとされたものですけれども、今は伊勢ヶ濱親方が陥落した照ノ富士に「現役続行を促した」ことが美談としてファンに受け入れられるのですから、隔世の感がありますね。

「横綱の地位保証ルールの廃止」は、前から実行するべきと考えていたのですが、鶴竜と稀勢の里が引退した後では「白鵬を狙ったルール変更」になってしまうことがネックと思っていました。

その白鵬が引退するこのタイミングは、ルール変更を実施する絶好の機会です。相撲協会と横審には、是非にも真剣に議論して欲しいものです。


具体的には「直近六場所中の通算成績で勝ち越しできなければ、横綱は即引退」とする形でどうでしょう。この場合、三場所休場して残り三場所を全勝優勝しても「勝ち越し」にはならないので、やはり引退です。どこかで一敗し負け越しが確定した時点で、場所中でもそこで現役終了になります。

大関の「陥落」条件に比べれば、それでも緩い基準です。横綱という地位の重要さを考慮しても、これが限度だと思います。


一方、秋場所では全員揃って8勝7敗と「ようやく勝ち越しただけ」に終わった大関陣、こちらの場合は昇進の基準を上げ、「直近三場所合計35勝以上」でいかがでしょう? 

現在は33勝が目安で、32勝でも昇進がありますが、ハードルを敢えて上げ、その地位に相応しい成績を保ち得る地力、真に横綱を狙える実力を培った上で昇進する形です。

大関がChampion、横綱はGrand Championというなら、相撲協会や横審はファンが「なるほど」と納得できる制度や基準を整え、上位陣の充実を図って欲しいと思います。


ところで最近、毎場所見かける「ヴィトンの君」、あの方はいったい何者なのでしょう? (どなたかご存知なら教えてくださいませんか?) 



[カバー写真] 
(参道脇の伏流水湧池 @深大寺)