2022~2023のメトロポリタンオペラの締めくくりは、
モーツアルト。
新作オペラの比重を増やしているラインナップの中で、
コテコテ王道の古典なわけですが。
ただ非常に力の入った新演出となっておりました。
「ドン・ジョバンニ」にも相当驚かされ、
感動させてもらいましたが。
オオトリの「魔笛」。
それはそれはすごかった。
どれだけの労力をかけたんだろう。
素人目にも、
汗と涙が感じ取れる大作でした。
元々モーツアルトがドイツ語でこの異色のオペラを作曲した経緯も、
初演時にパパゲーノを演じた興行師シガネーダからの依頼に基づいて、
貴族階級のためではなく庶民のための、親しみやすい娯楽というコンセプト。
今回のメトの新演出は、
そのあたりのベースを大いに意識した、
非常に凝ったプロダクションに仕上がっていました。
シガネーダが自分の出番をつくるために創作させたパパゲーノの役回りも、
メトならではの大掛かりなテクノロジーと、
あえての古めかしい職人技とをミックスさせた大胆にしてお金も労力もふんだんに投入した、
現代ならではの巨大エンターテイメントに昇華させ。
未来のオペラというものの可能性を示唆するという、
ゲルブ氏のビジョンを具現化し。
芸術的な視点のみならず、娯楽的な観点でも、
いろんな角度から楽しめる。
音楽ファン・オペラファンという少ないパイだけをターゲットとするのではなく、
すそ野を広げていくという戦略に対する積極的な試行が次々と紐解かれている。
現時点でのその集大成。
パパゲーノ役が持つ道化師的なキャラクターを、
現代風に進化させ、
そこを中心としたて多角的にキャチーな要素を詰め込んだ見事なプロダクションでした。
以前の記事に書きましたが、
技巧的に一番の見せ場を持つ夜の女王の扱いにしてもそうで。
いわゆる「オペラ歌手」の妙技にスポットを当てた演出も、
久しぶりに見ましたし。
そういうすごい歌手を発掘してくるシステムから、
観客のそれに対する反応も含めて。
これまた古き良き時代の「オペラ」臭。
近年ご無沙汰になっていた、
この空気感は何よりオペラ・ファンには堪らないものがあります。
それと、新たに起用した女性マエストロ。
彼女の存在感も、
爽やかな風通しの良さを体感させてくれる。
清涼剤のように思いました。
以前の記事にも書きましたが、
映画「ター」の題材になるくらいにダークなイメージがこびり付いていた業界であり。
男性優位の社会の中で、
女性が主導しているその絵柄だけでなく。
ナタリーさん自身の真摯に音楽に向き合ってる空気感。
これは実は主観的なものでしかなく、
情報操作された上での表面的な印象でしかないから、
意味はないのかもしれないとわかっていつつも・・・
お金を払う側にとって、
結構大事な部分であって。
安いとは言えないお金を放出する上で、
無関係ではないと思うのです。
オペラ歌手の両親のもとに生まれ、
自身もリートを中心とした実力派歌手としてキャリアを築き。
そのバックボーンからくる信頼感と、
自身の夢であったオペラ指揮者というポストを、
最高の舞台で掴んだ、
その高揚感や情熱量。
インタビューなどで垣間見る、
そのピュアな姿勢が。
とても爽やかで心地いいものでした。
誰よりも歌手というものを知っていて、
寄り添い方を心得ている。
そんな歌手出身マエストロが作り出す、
とっても楽しいモーツアルトのジングシュピール。
生きていてよかった、
オペラ好きでよかった。
陳腐だけど、
そんな気持ちにさせてくれるような。
素敵な舞台でした。