ビルギット・ニルソン(1918~20015年)、
という伝説の歌手の事。
ニルソンはスェーデン出身の歌手で圧倒的な声量と、
ドラマチックな歌唱で大成功をした歌手です。
特にワーグナー歌手として有名になりました。
ワーグナー歌手とは、
ワーグナーの壮大なオペラを歌いこなすだけの強靭な声を持つ、
エネルギッシュな歌手のことです。
ワーグナーのオペラは桁はずれに長く、
ボリュームが厚い高音をひたすら歌いあげねばならないので、
負担も大きく、
選ばれし特別な声、
声帯を持つ人でないと務まらないので、
ワーグナー歌手という枠があるのです。
希少価値であると共にその負荷が故に、
ワーグナー歌手のギャラはいいそうです。
以前バーバラ・ボニーという可憐なソプラノ歌手が、
マスタークラスでそのようなことを語っていました。
(バーバラさんはワーグナー歌手ではありません。
可愛らしい容姿と乙女な声で、
モーツアルトの小娘系の役なんかを得意にされています)
とにかくニルソンさんは生まれつきスゴイ声を持っていたようで、
常人離れしたハガネのような、
氷のようなぶっとんだ声を持ってらっしゃいます。
オペラに興味がなくても皆さんが知ってる「トゥーランドット」。
テノール歌手のアリアが有名です。
あのオペラのトゥーランドット姫。
この役は心に闇を持っていて、
本当は結婚したくないので、
求婚相手に無理難題を与えるのですが、
後半まで登場せず、
ミステリアスに描かれています。
そんな不思議なキャラ故に、
プッチーニはこの姫に対して、
所謂お姫様系の可憐な曲を書いていません。
絶世の美女ですが、
過去の男性への憎悪から氷のように心を閉ざしているので、
その恨みつらみ、復讐心を、
切々とエネルギッシュな高音で歌い上げるのです。
ニルソンさんのオハコともいえる役柄。
この人のトゥーランドットを聴くと、
他の人ではなかなか満足できなくなってしまう破壊力です。
当時プラチナチケットになっていたと言われています。
この曲はとんでもない高音を、
ものすごい声量で歌い上げねばならないので、
ほぼほぼワーグナー系歌手が担います。
そして皆様がうっとりと聴く、
テノールの甘いトゥーランドットの看板曲
(荒川静香さんで有名になりましたね)は、
そんな姫の氷を溶かすドラマチィックな甘さなのです。
上の動画はニルソンさんと共に舞台に立ったフランコ・コレッリという、
こちらも有名なテノール歌手。
この方も類まれな美声と容姿にも恵まれたスターテノールなのです。
この二大スター歌手が共演するトゥーランドットは、
大評判となり、
大人気だったそうです。
ニルソンさんの自伝によると、
スター同士であるが故に、
また、
とんでもない高音を自慢とする、
天才二人だったが故に、
舞台上で必要以上にお互いの高音を自慢し合う、
戦いになっていたエピソードが書かれていました。
舞台上では最後甘く結ばれる主役同志ですが、
実際には張り合って一触即発の歌自慢合戦を繰り広げる、
犬猿の仲だったそうなのです。
ニルソンさんは、
経済的に成功し、
ユーモラスで知的な人であったようで、
自伝はとても面白いです。
とは言ってもよほどオペラ好きでないと、
なかなか手が出ないと思いますので、
もしご興味がある方は、
ウィキペディアで面白エピソードがいくつか見れます。
一番下の方にニルソンをめぐる逸話というのがありますよ。