俺はベ ッドに横たわり、ぐったりしたニノを抱き寄せ、髪を撫でながら、先ほどの乱れるニノを思い出してドキドキした。
あんな…キ ス…ねだるみたいに上目遣いで見つめられたら…
たまんない…
ニノがそんなことするなんて思わなかったから余計…
腕の中のニノはまだ荒い息だ。俺の胸に顔を埋めるようにして、呼吸を整えている。
俺はニノをそっと抱きしめて、髪を撫でながら言った。
「お前さ…日本帰ったら…上目遣い禁止な」
「は?」
「お前の上目遣いは…ダメなんだよな、なんか」
「ふふ…」
ニノは照れたように笑って、俺にしがみついてきた。
「主(ぬし)にパン…やってないね…」
くすくすとニノが笑いながら俺を見上げる。
「そういや、そうだな…」
「最後だし、やんないと」
起き上がろうとするニノをぎゅっと抱きしめる。
「やんなくても…大丈夫。わかってくれてる」
自信たっぷりに言うとニノは噴き出した。
「どういう意味ですか?」
「お前の可愛い声とか聞いて、『ああ…今夜はないな』って察してくれてる」
俺が機嫌よく言うと、ニノは真っ赤になった。
「だって、水上ヴィラの下に住んでんだぜ」
「バレてんの?俺たちのこと」
ニノは頬を染めたまま、面白そうに笑って目を細めた。
「バレてんだろ。珍しいタイプだから」
「…男同士だから?」
「や、ヴィラに来てから、始まったから…」
ニノは一瞬、目を見開いた。でもすぐに、ふふふっ、と俺の好きな笑い方で、照れたように笑った。
「そだね…主(ぬし)もびっくりしてんだろうね」
「あいつら、ここ来てからデキたぞって」
ふふっと、お互い顔を見合わせて笑った。ベ ッドに横たわったニノの、俺を見つめる瞳が泣き出す直前みたいに、潤んでいるように見える。そんなことにも、愛おしい、という気持ちが湧いて来て、俺はニノを仰向けにすると、その体の上にのしかかった。
「さっき、超可愛かった…」
「なに」
「チュウ…して欲しかったんだろ」
一瞬で真っ赤になるニノの唇を塞ぐ。手首をぎゅっとシーツに縫い止めるように押し付けると最初は 抵 抗 を感じたニノの腕からするりと力が抜けて行く。
あれ…?
なぜか既視感があって俺はゆっくりキ スしながら少し考えた。ああ…そういや、ニノにキ スする夢見ちゃったんだっけ…
俺は唇を離した。
「そういやこの前さ、ニノにこんなこと…する夢見ちゃったの」
「へ⁈ 」
俺が言うと、ニノは驚いた表情になった。
「こんなことって…」
「ん…キ ス…とか」
はあ…なんか中学生みたいだな…
恥ずかしくなってきて、言葉を濁す。顔が熱くなって、ニノを見ると、ニノも再び真っ赤になっていた。
「いつ?」
「いつ?って…割と最近…バーに飲みに行った日かな」
俺が言うと、ニノは一瞬目を見開いた。その後、恥ずかしそうに目を伏せる。
「そ…なん…です…か…」
ニノが一言ずつ言葉を紡ぐたびに、乱れた髪がひょこひょこ動く。ああもう、髪の毛までかわいいなんて、重症すぎる…
「だからなんか…余計嬉しいっつか…」
照れ隠しのために、俺はニノにがばっと覆いかぶさって、もう一度深いキスをした。
Side N
あの時、夢の中で、俺とキスしてたんだ…
俺は大野さんの柔らかな唇を受け止めながら、その事実を噛みしめた。胸の奥がまたドキドキして来て、俺はぎゅっと目を閉じた。
ああ…もう…
なんでこんな気持ち…
こんな歳になって、キスして…
ドキドキしまくってるなんて…
目を開けると、唇を離した大野さんと目があった。
この人だから、だよね…
じっと見つめてくる大野さんの髪をそっと撫でる。
いつか、あの時本当にキ スしてたんだよって教えてやろ…
慌てて恥ずかしがる大野さんを想像すると、頬が緩んだ。
「何笑ってんだよ」
ちょっと拗ねたように唇を尖らせるから。
ふ、と微笑んで俺から大野さんの唇を塞いだ。ヴィラには、永遠に続くような波の音が、ざざん、ざざんと心地よく響いていた。