「んっ…ふ…ぅ…」
息もできないくらい貪られて、俺は本当に苦しくなって唇を離した。
「っはぁ…バカ…」
大野さんは俺の言葉に眉を少ししかめたけれど、すぐに俺の顔を両手で挟んだ。
「ごめん…でも、好き」
ああ、マジで、息が止まりそう…
俺は何も言えずに大野さんを見つめた。大野さんは水の中の俺の体を両手で支えて抱き上げると、プールの壁に沿って設けられた水中の段差の部分に腰掛けさせた。大野さんは俺の正面に立って、段差の部分に開いた両手をついた。そうすると大野さんの方が目線が下になって、下から見上げられる体勢になる。月の光が大野さんを後ろから照らして、くっきりとした鼻梁と美しい瞳を際立たせていた。
「俺は好き…」
ささやくような大野さんの声が、「下から降って」きた。大野さんはまた俺の頰に手を触れさせた。プールの水で手のひらは濡れていて、でもそんなことはどうでもよかった。目の前の唇に視線を落とすと、また唇が触れ合った。ちゅ、と一瞬で離れた唇は、俺の頰に移動する。
「ニノ、好き…」
ちゅ、ちゅ、と場所を変えていく口づけに、胸が痛いくらいに騒いで、俺は大野さんの首根に腕を回した。
「俺、も…」
俺が発した声もかすれていて、月の光を受ける波間に消えていくみたいだった。だけど、大野さんはそれを耳にしたのか、目を見開いて俺を見つめた。
「マジで…ニノ…」
途端に恥ずかしくなって、素早く目を合わせて頷くと、大野さんは「もう、怒ってねぇ?」と心配そうに尋ねながら小首を傾げた。その仕草が可愛くて、俺は「怒ってる」とわざと唇を尖らせた。そしてすぐに「怒ってるけど…好きだよ」と囁いた。大野さんは、目を見開いた。
「もっかい言って…」
「怒ってる」
「…そっちじゃねぇよ」
残念そうに眉をしかめるのも可愛くて、ついぷっと笑うと、大野さんはふふ、と笑った。
「怒ってても好き…ニノ」
大野さんは、俺に顔を寄せて、また俺の唇を塞いだ。二度、三度と啄ばむようにされて、目があった瞬間、またぐっと抱き寄せられた。何度も重なる唇に、吐息も混じり合う。
「止めらんない、な…」
大野さんが照れくさそうに、呟いて笑ったとき、ビーチの方向からヒュウっと口笛が聞こえた。見ると隣のヴィラのテラスにピエールが立っていて、こちらを見ている。ふふ、と面白そうに微笑む彼に、俺は恥ずかしくなって体が熱くなった。
「あ、ピエー…んっ…」
大野さんは一瞬ピエールを見たけれど、すぐに俺に向き直ってまた素早くキスをした。
「俺見てて」
「あ…」
唇を離して短く言うと、大野さんは俺の頭を引き寄せて、何度も唇を重ねた。そのうち、隣のヴィラのテラスの扉が閉まる音が聞こえても、俺たちはずっとそうしていた。