この人がいないと俺はダメになる。
そんなことを心の底から思ったことはなかった。
俺は軽い絶望感に打ちのめされ、同時に諦め、受け入れようとした。他人のせいで自分の気持ちが、人生が、こんなに左右されるなんて、絶望でしょ?でも、同時に、この人なら仕方ない、と思えた。そう思える人だから、俺の人生を「どうにかできる」んだ。受け入れると、今度はその事実はとても甘美なことのように思えた。
この人が長く不在にしていたとき、生きた心地が全くしなかった。後から考えたら短かったのかもしれないけど、そのときは地獄のように長く感じたんだ。でも今は…。クーラーの効いた俺たちの安全なヴィラで、2人はソファに座っている。大野さんは俺に果実を食べさせてくれている。大野さんの指が唇に触れて、胸の奥の嵐が狂おしく暴れた。指が触 れただけでこんなになるなんて、終わってる。でも、だから、もっと触れたい。もっと欲しい。胸の嵐は俺を急かすようにざわざわと大きくなった。南国の果実は甘くて、驚くほど美味い。だけどもう俺は、別のものが欲しくてたまらない…
この人が長く不在にしていたとき、生きた心地が全くしなかった。後から考えたら短かったのかもしれないけど、そのときは地獄のように長く感じたんだ。でも今は…。クーラーの効いた俺たちの安全なヴィラで、2人はソファに座っている。大野さんは俺に果実を食べさせてくれている。大野さんの指が唇に触れて、胸の奥の嵐が狂おしく暴れた。指が触 れただけでこんなになるなんて、終わってる。でも、だから、もっと触れたい。もっと欲しい。胸の嵐は俺を急かすようにざわざわと大きくなった。南国の果実は甘くて、驚くほど美味い。だけどもう俺は、別のものが欲しくてたまらない…
大野さんの指が俺の 舌 に触 れた瞬間、大野さんは弾かれたように立ち上がった。一目散にテラスに出て行くから、意味がわからなくて慌てて後を追いかける。大野さんはプールサイドから少しジャンプしてプールに飛び込んで水しぶきを上げた。なんなんだ、いったい。もうどこにも行って欲しくないって言ってんじゃん…なんて、言えない自分に不満を感じながら、俺は代わりに「大野さん…」と呟いた。
大野さんはプールから顔を上げた。月の光を背中から浴びる大野さんは、夜の青を身にまとい、美しかった。思わず見惚れていたら、プールの縁に近づいてきた大野さんに下から強く手を引かれて、「あ」と思う間も無く俺はプールに落ちた。
な…
ばしゃん、と音がして、体はプールに落ち、顔に水がかかる。俺たちはずぶ濡れのまま、プールで向かい合った。
「何すんだよっ」
思わず声を上げると、大野さんは真剣な顔で「ごめん…最後の抵 抗 がうまくいかなかった…」と呟いて俺の頰に手を当てて引き寄せた。
「どういう…い…み…」
「頭…冷やしたかったんだけど…」
苦しげに呟く大野さんは、俺に顔を寄せた。どんどん近づいてくる大野さんの唇に、胸が破裂しそうになった。
だめだよ…
キス…したくなる…
「頭冷やしても…止まんない…俺のこと…なじっていいよ…」
冷えてないんじゃないの?とか、バカ、とか言う暇はあったのかもしれない。でも言っても言わなくても結果は同じだったと思う。その次の瞬間、俺の唇は、力強く俺を引き寄せる大野さんの唇で塞がれたから。
「んっ」
気づいた時には、俺も大野さんの頭を抱きしめていた。大野さんも俺の体に腕を回して、ぎゅっと引き寄せる。薄く唇を開くと、たちまちぬ れた熱 が重ねられた。
ああ…
これが、欲しかった。
これが欲しかったよ…
目を閉じて、夢中で大野さんを抱きしめる。好きだ、という気持ちが後から後から湧いてきて止まらない。
「ん…ん、」
ちゅ、と時折上がる水音にずぶぬれの体の温度はどんどん上がっていく。