Side O
あれ、あいつもいないじゃん…
もしかして…ニノ、あいつと…
ピエールとかいうフランス人もいなくなっていることに気づいて俺の焦りはますます大きくなった。
「ニノ帰ったのかな」
俺が呟くと、隣で同じく酒を飲んでいる相葉ちゃんがこちらを向いた。
「ニノ?さっきあの金髪の人と出てってたよ」
「マジで?」
俺が声を上げて立ち上がると相葉ちゃんはびっくりして目をまん丸にした。
「い、いつくらい?」
「んーいつだろ…さっきリーダーが船のパンフ見せてもらってる時くらい」
俺はレストランの時計に目をやった。
結構、たってんな…
「何か約束してたの?一緒に帰るとか」
「や、そういうわけじゃ…ねんだけど」
…言われてみれば、別にお互い大人なんだし、同室だからって行動を共にする必要はない。
だけど、あいつと出てったってのが…
肩を抱いたり、手を取ってエスコートしたり、ニノのことを気に入っているらしいピエールのことを思い出すと、胸がざわめいた。
もし、ニノがなんかされてたら…
なんだろ…
すげぇ…やだ…
そのとき、マリさんがレストランの奥から戻ってきた。「俺もう行きます」と言おうとした時、マリさんが小さなメモのような紙を持っていることに気づいた。
「大野さんにお電話が…ご伝言ありましたよ」
「へ?俺に?」
「こちらにお泊まりのピエールさんという方です。ご存知ですか?」
ピエール…なんで…
俺が頷くとマリさんはメモを見た。
「ニノミヤさんがお部屋にいるので来てください、ということでした」
な…
マリさんは顔を上げた。
「ピエールさんのお部屋はわかりますか?一応うかがっていますが」
「あ、わかります、ありがとう」
俺はお礼もそこそこに、レストランを飛び出した。
ライトアップされた夜の桟橋を猛ダッシュしたら、すれ違うホテルスタッフが驚いて声をかけて来るけれど、そんなの今の俺に構っている余裕はなかった。
あいつの部屋、行くなって言ってたのに…
ったく、あぶなっかしいんだよ…
なぜか、ニノと2日前風呂で裸同士触れ合った時の感触とか、ニノがラッシュガードを脱いだ後の白い肌が頭に浮かんできて、俺はますます焦った。
部屋にふたりきり…
何されっかわかんねぇじゃん…
俺は灯りのついたvilla No.13の前で止まると、一息ついてドアの呼び鈴を押した。
ニノになんかしてたら、あいつ許さねぇ…
ぐっと拳を握りしめたとき、中から人が出て来る気配がした。
「Bonsoir! オオノサン、イラッシャイ」
「あ、おお…あの…ニノは?」
にこやかに微笑むピエールに俺は面食らった。