BL妄想です
苦手な方はお気をつけくださいませ
「あの…」
大野さんは読んでいた雑誌をそばのローテーブルに置いて、困り顔から困った声を出した。俺は、なんでいなくなったんだよ、と思いを込めて口を尖らせつつ聞いた。
「あの…昨日、うち、来たよね…?」
ぽつりぽつり言うと、大野さんは一瞬固まった後、こくりと頷いた。
「なんで…俺が起きる前に帰ったの?」
「…ごめん」
大野さんは眉を寄せてそう呟くと、目をそらした。
「お前と…その…あんなこと…して…」
俺は大野さんの、珍しく膝の上できゅっと丸められた握りこぶしを見つめた。
「信じらんなくて、すげぇ…嬉しくてさ……」
大野さんは顔を上げた。胸がどきん、と跳ねる。困りはてたようなその顔も、好きだな、と思った。
「だけど…俺…すげぇ酔ってて、なんか、勝手にいろいろしちゃったような気がして…お前に悪いことしたなって…」
大野さんはばつの悪そうに目を伏せた。
…や、男の俺から見ても…かなり、我慢してくれてた…と思うけど…
大野さんは少し黙った後顔を上げた。
「そんでお前起きたら…もしかしたら…何すんだよって言って…怒るんじゃねぇかって…したら、昨日のこと、なかったことにしようって話になんじゃねぇかって…」
「え…」
「だから、もうとりあえず、既成事実にしようと思って帰ったの」
は?
大野さんは真面目な顔で眉を寄せたまま俺を見つめていた。
この人が、既成事実という単語を口にしたことにびっくりしたけれど、今はそこじゃない。
「や、普通逆…でしょ」
「へ?」
俺が絞り出した声に大野さんは驚いた声をあげた。
「既成事実にしたいんなら、そのままいるでしょ」
「へ?そ…なの?」
「そう。だって帰ったら、なかったことにしたかったのかな?って思うじゃん」
大野さんは目を丸くした。
「…てことは…ニノの中では、なかったことにしなくていいの?」
「いいよ、そんなの…したじゃん、だって…」
昨夜のことが急に蘇ってきて、俺はまた頰が熱くなるのを感じた。
「怒ってねぇの?」
「怒ってない…」
「マジで…」
大野さんは掠れた声でそう言うと、立ち上がってふらふらとこちらのソファへ座った。
「痛かっただろ?」
「んなの、いいよ」
大野さんはおずおずと両手を開いて、俺を抱き寄せた。
「ギューってしていい?」
そう聞かれるやいなや、俺は大野さんの腕の中にぎゅっと抱きしめられた。
あ…
大野さんの香り…
「もう…してるじゃん」
「んふふ…」
大野さんの肩に顔を乗せていたから見えなかったけれど、大野さんはやっと、照れくさそうに笑ったみたいだった。大野さんが俺を抱きしめる腕にはしっかりと力が込められていて、昨夜の腕と同じだ、と思った。
「大野さ…」
「ニノ」
俺も抱きしめたくて、腕を動かして身じろぎしたら、不意に顔の前が暗くなった。ふに、と唇に柔らかいものが押し付けられる。
「ん…」
どどどどうしよ…
ここどこかわかってんのかよ!
誰か入ってきやしないかと焦る俺の薄く開いた唇に、大野さんは素早く侵入した。
「っふ…」
やばい…
やっぱ、気持ちいい…
触 れあう熱は優しくて、甘くて熱い。吸 われ、絡め取られる感覚につい「もっと」とでも言うように求めてしまう。大野さんの手が俺の後頭部に回って、深く絡み合うように引き寄せられた後、その手が今度は俺の耳を包んだ。