Side N
「…ぁ…っふ…ぅ…」
俺が苦しげにうめいたせいか、大野さんは唇を離した。
「お前…っとに、酔ってるだろ?相手、俺だって…わかってんの?」
唇を手の甲で拭いながら、大野さんを軽く睨む。
「だって…」
俺が言うと、大野さんを包んでいたふわふわした空気の温度が一気に冷えていくかのように、眉が下がる。
「酔ってるときくらいしか…ニノとちゅーできねぇもん…」
大野さんは最後は子供みたいな拗ねた口調になって、でも、瞳は真っすぐ俺を見ながら、また唇を寄せてきた。
なんで、あのとき
洗面台スペースの引戸を、そちらを見もせずに
近い方の手で探るようにしてまで、閉めたのか、
今なら、わかる。
笑っちゃうよ、ホントに。
とっさに、鍵までかけたんだもん、あのとき。
それはたぶん、
息が苦しかったから。
大野さんの、泣きそうな顔を見て、
苦しかった…けど、
俺も今、同じ顔をしてるって思っちゃったんだよ。
大野さんは唇を合わせながら、まるで恋人にするかのように、俺の髪をその長い指でくしゃりとつかむと、何度も指先で弄ぶ。
「ニノ…」
「っは……ぁ…んっ…」
髪をいじ る指が耳をかすめて、気を取られた。キ スを受けとめるのがおろそかになると、大野さんの手がダメだよ、って言うかのように、俺の後頭部に回ってぐっと押し付けられる。
「っ…んっ…」
いつのまにか、大野さんの肩に腕を巻きつけている自分に気づいた。
もっと
もっと近くに
もっと近くに来て欲しい
焦燥感にも似た、わけのわからない激しい嵐みたいな思いがこみ上げて、俺も自分の手で大野さんの後頭部をぐっと引き寄せたとき、
ふにゃり。
は?と思う間もなく、大野さんの体はぐらりと崩れ、再び俺に力なくのしかかってきた。
「ちょ……なっ…んなの…」
信じらんない…
こいつ、
また、寝てやがる…
俺の肩に顔を埋めて、すうすうと寝息を立てる大野さんの髪を、俺は腹立ちまぎれにくしゃりと乱してやった。
「あれをホントに覚えてないとはね…」
俺はわざとまた大きくため息をついて、呟いた。
あの後、眠ってしまった大野さんは、見かねたマネージャーに強制送還されるようにして帰ってしまった。
翌日からも、何事もなかったかのように振る舞う大野さんを見て、俺は思った。
「ニノ…ごめんってば…」
大野さんの腕に捕らえられている俺の髪に、大野さんは後ろから顔を埋めた。
黙ってじっとしたままでいると、大野さんは俺がまだ怒っていると思ったのか、俺をひっくり返して自分の方へ向かせる。
「覚えてなくて、ごめん…もう、忘れねぇから…もっかい…」
「ばーか」
唇を寄せてくる温かい塊に悪態をついて、そっぽを向くそぶりをしてから、俺は思い直して、もう一度口を開いた。
「いちいち覚えてらんないくらい…いっぱいしてよ」
大野さんはやっと安心したようにふにゃりと笑って、「よっしゃ」と呟くと、今夜何度目かわからないキスを、俺にそっと、落としてくれた。
は?と思う間もなく、大野さんの体はぐらりと崩れ、再び俺に力なくのしかかってきた。
「ちょ……なっ…んなの…」
信じらんない…
こいつ、
また、寝てやがる…
俺の肩に顔を埋めて、すうすうと寝息を立てる大野さんの髪を、俺は腹立ちまぎれにくしゃりと乱してやった。
「あれをホントに覚えてないとはね…」
俺はわざとまた大きくため息をついて、呟いた。
あの後、眠ってしまった大野さんは、見かねたマネージャーに強制送還されるようにして帰ってしまった。
翌日からも、何事もなかったかのように振る舞う大野さんを見て、俺は思った。
覚えていてもいなくても、大野さんが何事もなかったように振る舞う、ってこと自体が答えじゃないか。
「ニノ…ごめんってば…」
大野さんの腕に捕らえられている俺の髪に、大野さんは後ろから顔を埋めた。
黙ってじっとしたままでいると、大野さんは俺がまだ怒っていると思ったのか、俺をひっくり返して自分の方へ向かせる。
「覚えてなくて、ごめん…もう、忘れねぇから…もっかい…」
「ばーか」
唇を寄せてくる温かい塊に悪態をついて、そっぽを向くそぶりをしてから、俺は思い直して、もう一度口を開いた。
「いちいち覚えてらんないくらい…いっぱいしてよ」
大野さんはやっと安心したようにふにゃりと笑って、「よっしゃ」と呟くと、今夜何度目かわからないキスを、俺にそっと、落としてくれた。
-終-