Side N
翔ちゃんは自分で自分に回答すると、またくっくっと笑った。
受かったら、したかったことなんて…
ひとつだけ。
俺は黙ったまま、運転する翔ちゃんをじっと見た。
「…ニノ?」
翔ちゃんは俺の視線を感じたのか、訝しげな声をあげたけれど、運転中だから、視線は前方においたままだった。
「翔ちゃん…俺が受かったらしたかったこと、今していい?」
「…それは…ダメ」
「え、あ、翔ちゃん」
翔ちゃんは、速度を落とすとハンドルを切った。国道をそれて、小さな脇道に車を進ませて行く。
あたりは人通りの少ない真昼間の住宅街で、翔ちゃんは小さな公園の入り口脇の樹の下に車を止めた。
「翔ちゃん?」
「お前が受かったらしたいって言ってたこと…俺が先にしたいって言ったの、忘れちゃった?」
「あ…」
翔ちゃんの手が俺の顔に伸びてきて、頰に触れた。温かくて、翔ちゃんの香りがして、胸がドキドキ鳴り始める。
「翔ちゃ…」
「好きだよ」
翔ちゃんの瞳は、まっすぐ俺を射抜くように見つめていた。
車の外で、春の嵐みたいな強い風が吹くのが聞こえる。
「先生ヅラして…先生って呼べとか…いろいろ偉そうに言ったけど…ずっと好きだった」
俺も好き、と言いたかったけれど、何か声に出して言えば、泣いてしまうかもしれないと思った。
「だからもう…先生なんて呼ばないで…」
翔ちゃんの腕が俺の後頭部に回って、抱き寄せられる。
シートベルトに引っ張られる体。
目を伏せた翔ちゃんの顔、
薄く開いた唇。
「翔…」
…ちゃん、と呼ぶ声は声にならなかった。
翔ちゃんの唇が俺のそれを塞いで、何か反応する間も無く、熱い 舌が 忍び込んできた。
「っ…んっ…ぁ…」
胸の奥が誰かの熱い手でぎゅっと掴まれているかのように、ひどく甘く、痛む。
こんなキス…知らないよ。
こんな気持ちになるなんて…
教えておいてよ…先生…
翔ちゃんの舌は、最初こそ遠慮がちに俺の 舌を誘うようにしていたけれど、だんだん激しく俺の息を奪っていく。
「んっ…んんっ…ぁ…」
「…ごめん…苦しかった…よな?」
翔ちゃんは唇を離すと、申し訳なさそうに眉を寄せて俺を見た。
「はぁ…翔ちゃん…ズルい…」
「ズルいって…何が…」
「先生、ズルいよ…俺だって…ずっと好…んっ…」
ふっ、とかすかに微笑んだ翔ちゃんがまた俺の唇を塞いだ。温かい手がほおを撫でて、耳をかすめる。
「もう、先生なんて…呼ぶ生徒には…回答権はやらん」
「なっ…ズルい…よ…」
呼吸の甘美な不自由さにあ えぎながら、俺は必死で言った。
合格したのは俺なのに…
なんで、俺が「好き」って言えないんだ…
「翔ちゃ…んっ…好…き…ぁ…っふ…好き…」
何度も唇を啄ばまれる。その合間を縫って、必死で、「好き」と繰り返す。
「翔…」
…ちゃん、と呼ぶ声は声にならなかった。
翔ちゃんの唇が俺のそれを塞いで、何か反応する間も無く、熱い 舌が 忍び込んできた。
「っ…んっ…ぁ…」
胸の奥が誰かの熱い手でぎゅっと掴まれているかのように、ひどく甘く、痛む。
こんなキス…知らないよ。
こんな気持ちになるなんて…
教えておいてよ…先生…
翔ちゃんの舌は、最初こそ遠慮がちに俺の 舌を誘うようにしていたけれど、だんだん激しく俺の息を奪っていく。
「んっ…んんっ…ぁ…」
「…ごめん…苦しかった…よな?」
翔ちゃんは唇を離すと、申し訳なさそうに眉を寄せて俺を見た。
「はぁ…翔ちゃん…ズルい…」
「ズルいって…何が…」
「先生、ズルいよ…俺だって…ずっと好…んっ…」
ふっ、とかすかに微笑んだ翔ちゃんがまた俺の唇を塞いだ。温かい手がほおを撫でて、耳をかすめる。
「もう、先生なんて…呼ぶ生徒には…回答権はやらん」
「なっ…ズルい…よ…」
呼吸の甘美な不自由さにあ えぎながら、俺は必死で言った。
合格したのは俺なのに…
なんで、俺が「好き」って言えないんだ…
「翔ちゃ…んっ…好…き…ぁ…っふ…好き…」
何度も唇を啄ばまれる。その合間を縫って、必死で、「好き」と繰り返す。
翔ちゃんの手が俺の耳のあたりをゆっくりと大きな動作で撫 でて、首 筋に這 っていった。