Side N
大野さんは、ナカジを見送った後、遠慮がちにベッドに近づいてきた。
「…ごめん。なんか…もう一度、会いたくて」
俺は首を振った。
もう一度会いたかったのは、俺の方…
正直、俺のHPは残り少ないけどね。
喉が痛むし、体中だるいし、頭も重くてぼうっとする。
とても狩猟(ハント)なんて言ってらんない体調になってきた。
でも…
このややこしい時に俺ん家に来ちゃって、「会いたかった」と口にするこの人に、「また、仕事で会えるじゃん」って冗談めかして終わりにするのも違うと思った。
大野さんが言う、「もう一度」はきっと、俺のと同じ意味…だよね…
今日、もっかい俺に会いたいって…思ってくれたんだよね…?
俺は、この人の言葉を、そのままで信じたい。
手先が器用なくせに、
生きるのは不器用で下手くそなこの人を、
そのまま、好きでいたい。
いつも、そうありたいと…思ってんだよ。
「動物だからね、我々は」
俺が呟くと、大野さんはキョトンとした。
「全部の行動を、理屈とかで説明できっこないってこと」
俺が言うと、大野さんは神妙な顔で頷いた。
「なんでかは…確かに、うまく説明できねぇの」
「うん、いいよ、それで」
今日は、来てくれた…それだけで、充分。
すげー、嬉しい。
彼はベッドサイドを見回しながら俺に尋ねた。
「あ、えっと…メシ食った?」
「うん…ナカジがおかゆ作ってくれた」
「薬…のんだ?」
「うん、のませてもらった」
大野さんは突っ立ったまま、少し眉を動かした。
「おいらと同じやり方…じゃないよな?」
不安そうな顔を見たら、いたずら心がわいてきた。
「ふふ…そうだって言ったら?」
「すげぇ…ヤだ…おいらが…飲ませ直したいくらい」
大野さんはベッドの傍らにしゃがみ込んだ。眉を寄せたまま、真剣な目でじっと見つめられて、ドキドキする。
もう…また熱上がりそ…
「ふふ…ウソだよ」
俺が笑みを浮かべながら呟くと、大野さんは「はあっ」とため息をついた。
「もー…あんま心配させんなよ」
「もしかしてそっちの心配…してくれてたの?」
「だって…お前、あいつと仲良いし…その…さっき、可愛いって言われたって…」
「ふふ、ナカジはいいヤツだよ。いい後輩」
大野さんは、座っている俺の頰にゆっくりと手を近づけた。
「なあ…俺は?」
「大野さんは大野さん」
「どういう意味だよ…って、お前、あっつ…」
俺の頰に触れた大野さんが、びっくりした声を上げた。
「だから、風邪だって言ってんじゃん…」
「ごめん!こんな話してる場合じゃなかった…何か、してほしいことある?」
「じゃ、リーダー…着替え…手伝って?」
傍らのTシャツを目で指しながら、大野さんに微笑むと、彼は神妙な顔のまま頷いて、「わかった」と言って、立ち上がって踵を返した。
…は?
彼はそのままドアを開けて、部屋を出て行った。
…な…なんなの…
着替えさせてって言われて、なんで部屋出てくの…
…これだから、
天然ってイヤなんだよな…