夫と結婚して12年になる。
夫婦ともに読書が好きで、結婚前の互いの家には大量の蔵書があった。
夫とまだ恋人同士だった頃、彼が相当数の本を処分するというので、私も部屋にお邪魔して増え過ぎた本の整理を手伝ったことがあった。
その際にとても驚いたのが、夫の部屋の本棚と、私の自宅の本棚とで、蔵書のラインナップがとてもよく似ていたことである。
あの本も、この本も、その本も、うちにもあるぞと驚きながら私は彼の本棚を眺めていた。
こんなものまで同じかと中でも一番驚いたのが、「ムーミン谷の冬」という、児童書とも言えるような小説がそこにあったことだった。
遠藤周作や田山花袋と並んで、彼の本棚にはこの本が収められていた。
そして全く同じムーミン谷の冬が、私の自宅の本棚にもあった。
「君はなぜこれを買ったのか」とまだ恋人であった夫に尋ね、そして運命的なものを感じずにはいられなかった、私がまだうら若き乙女だった昔のことである。
私たちはこんなふうに、全く同じ本をいくつもそれぞれ自宅に抱えていたわけだが、同じものを持っているとはいえそれは各々のものである。
そのため、夫が持っているからといって私は自分の持つ本を処分することはなかったし、夫も同様に、私が同じものを持っているからという理由で自分の本を処分することはなかった。
単純に「自分がもう読まないもの」だけをその日彼は処分し、整理していった。
数年後、すったもんだありながらも私と夫は無事結婚に至った。
新婚時代に借りた部屋は狭く、とてもではないが二人分の本を収めることはできなかった。
そこで私たちは改めて自分の持ち物を見直し、自分の本棚ではなく「夫婦の本棚」を作るために本の取捨選択をしていった。
このとき夫は初めて、「ゆきんこが同じものを持っているから」という理由で、自分の持っていた本を処分した。
独身時代の本棚整理では生き残った彼の「ムーミン谷の冬」も、夫婦になってからの本棚整理では処分対象となったのである。
その瞬間に私は彼と、恋人ではなく夫婦となったということを強く意識した。
今後、私のムーミンは彼のムーミンであるし、彼のムーミンは私のムーミンでもあるということだ。
そんな経緯があり、私にとって結婚とは「本棚の共有」を意味するのだが、過去のことを思い出しながら今朝久しぶりにムーミン谷の冬を読もうと思ったら、置いているはずの場所にそれが無い。
透明袋に入れて押し入れに片付けたはずなのに、どれだけ見ても無い。
まさか、私はかつての断捨離でこんな大事なものまで捨ててしまったのだろうかと一瞬青くなった。
しかしふとその奥を見ると、段ボール箱の側面に消えかかった文字で「ムーミン」とあるのが見えた。
箱の中には文庫サイズ以外の本を色々まとめて入れてあった。
中でも私にはムーミン谷の冬がやはり大事だったのであろう、数ある本の中から
・ (いろんな)マンガ
・ ソフィー(の世界)
・ ムーミン(谷の冬)
というこれぞの3タイトルを挙げ、ここにあることがすぐに分かるようにと昔の私は、自分で箱にメモしていたらしい。
私にとって「一冊しかないムーミン谷の冬」というのは結婚の象徴である。
夫への憎しみがどれだけ積もろうともこれだけは捨てないし、実際に憎しみにまみれたかつての私もこれはやはり捨てていなかった、という事実に安堵を覚えた、今日は私たち夫婦の結婚記念日だ。
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