「もしもし、芦田です。突然電話して申し訳ありません。唐突なんですが、先生、温泉好きでしたよね」
不意打ちの様な電話に、最上は驚いた様に、
ーーええ、好きですが、どうしたんですか、先生、唐突に。
二人は、お互いに「先生」と呼び合っているので、聞いていて少々ややこしい。
「先生もごご存知の通り、少し前ですが、山形のかみのやま温泉に行って来たんですが、どうですか? たまには二人で温泉でもーー」
まさに唐突な誘いに、最上は一瞬間を置いてから、口を開いた。
ーー温泉、ですか。いや、しかし……今の私は……
やはり、最上は、何かしら悩んでいるのだ。いや、普通に悩んでいるのではない。これは、小さい時から仲の良かった芦田だからこそ、分かる事だった。
それは、年に一度くらいしか顔を合わせず、メールでのやり取りしかしていない間柄でも、お互いに『心の友』、いや、『魂の友』と認め合っている二人だからこそ、分かり合える仲なのである。
「今の先生だからこそ、温泉に浸かって、心も体も癒しましょうよ。私も、色々洗い流したい事がありますから」
ーーしかし……上(かみ)さんが何て言うか……
最上にしてみれば、奥さんに了解を貰うのは、確かに大変な事なのであろう。だが、今の最上の状態を考えると、一度世俗から引き離す必要があると、芦田は考えていた。
奥さんの説得は私が引き受けたほうが良いのかなぁ、と芦田が考えていると、
ーー上さんには、何とか許して貰いますよ。
「じゃあ、温泉、ご一緒して頂けるのですか! ありがとうございます。ありがとうございます」
電話なので、最上には見えなかったが、芦田は満面の笑みを浮かべていた。
「着いたぁ!」
浅虫温泉駅前に立つと、芦田は、鉄人28号が「ガオー」と雄叫び(?)を挙げる時のように、両腕を鉤型にして、体を伸ばした。
(芦田)ちょ、ちょっと待ってよ、作者さん。鉄人28号は古過ぎでしょ? 今なら、せめて、MLBで活躍している吉田正尚選手の“マッチョマン・ポーズ”に例えて下さいよ。
(作者)あ、それがあったか! 気が付きませんでした。でも、鉄人28号、分かり易いと思たものですから。ははは……。
あ、失礼致しました。軽く右から左へと受け流して下さい。えっ? 例えが古い? こりゃまた失礼致しましたぁ。←だから、古いんだって(芦田)
「いや、まさか、青森まで来るとは、先生も思い切りましたね」
最上はそう言いながら、物珍しそうに駅周辺を見回していた。
「先生が、心まで裸になれるかなあ、と思いましてね。たまには良いでしょ」
「あれは足湯……ですか?」
「はい。私が依然来た時には、無かったんですがね。そこの道の駅も、足湯も。足湯、入ってみますか?」
「あ、いや、温泉はホテルで入りましょう。で、送迎は何時に来てくれるのですか」
温泉地のホテルなら、無料送迎があると思うのが当然だから、最上がこう言うのも、分かるというものだった。
芦田は、ニヤッと笑い、
「ホテルはそこですよ」
そう言いながら、芦田が歩き出す。
「そこ?」
芦田の後を追うように、最上も歩き出した。

