肝っ玉かあちゃんのひとり言 -2ページ目

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

fall in trap


昼食前の体育なんて、拷問でしかないと思う。

口にだすのさえ億劫で、心の中でぼやきながら、空腹で力の入らない体を引き摺るように教室へと向かう。

その途中、今一番聞きたくない名前が耳に飛び込んできた聞こえた。


「あ、跡部様だ!」


瞬間――。

跡部の声が、あの言葉が、頭の中に蘇る。


騒ぎだす心。

乱れだす鼓動。

ピンッと背筋が伸びて体に緊張が走る。


髪を手ぐしで整えて、体操服の裾を延ばし、吸い込んだ息を吐きだす。

そこまでして、私はハッとした様に心の中で舌を鳴らした。


これじゃあ、跡部の為に身なりを整えてるみたいじゃない。

べつにあいつにどう思われようとどうでもいいはずなのに……。


空腹なうえに自己嫌悪でガクリと項垂れる。

そんな私の心情を知ってか知らずか、友達が「跡部の絵だって。菜都見てみなよ」と私の肩を叩いた。


「絵?」

「ほら、美術部の誰かがコンクールで入選したとかいう絵だよ」

「あぁ、そんなこと言ってたね……」


この間の朝礼で校長がそんな話をしていた気がする。

あまり気にもとめていなかったけど、モデルが跡部ということだけは妙に耳に残っていた。


友達と並んで飾られた絵の前に立つ。

重厚な額縁に納められた絵には、ソファで足を組み、分厚い本を読んでいる跡部が描かれていた。


一言で言うなら『綺麗』という言葉がぴったりだろう。


すらりと伸びた長い足。

夕日に照らされて煌く髪。

目の下に落ちた睫毛の影。

本に注がれた穏やかな眼差し。


まるで本当に、目の前に跡部がいるかのような錯覚を起こしそうになる。

あの時のように……。

「菜都?どうしたの?顔真っ赤だよ?」

「え?な、なんでもない!」


そう答えたものの、顔がどんどん赤くなっていくのが自分でもわかる。

絵の中の跡部が私を笑っているようで、悔しさと恥ずかしさでさらに顔が熱くなる。


違うのに……。

そんなんじゃないのに……。

否定すればするほどあの言葉が、あの光景が蘇る。


「……っ」


これじゃあいつの思惑通りじゃん。




――あれは、2週間ほど前のことだ。

私は担任に頼まれた仕事を一人教室に残ってしていた。


誰もいなくなった教室に、パチンパチンとホッチキスの音が響く。

数枚の紙を重ね、端をホッチキスで留めていくという単純な作業だけど、だからこそ苦痛で仕方ない。

なのに私は、この作業をこの学年になってから何度しているのだろう?

私ってお人好しなのかな?

いや、ただ単にNOと言えないだけだ。


1度了承してしまったのが悪かった。

それから事あるごとに、担任は私に頼むようになってしまった。

断ればいいんだろうけど、それができない自分の真面目さが恨めしい。

長所でもあるとは思うけど、それで損している事が多いのは気のせいではないだろう。


「はぁ、まだ半分も残ってる……」

「手伝ってやろうか?」

「っ!?」


溜息と共にもらした呟きに、まさか返事が返ってくるとは思っていなかった私は、声が聞こえた瞬間、椅子から飛び跳ねる勢いで驚いた。

そんな私の様子をおかしそうに笑いながら、声の主は悠々と私の前の席へと腰掛けた。

「驚かさないでよ」

「あーん? ボーッとしてるお前が悪いんだろ?」


跡部はフンッと小馬鹿にしたように鼻を鳴した。


「跡部に手伝ってもらったら、高くつきそうだからいい」

「よくわかってんじゃねぇか」

「金持ちの癖に礼をせびるとかせこすぎる」

「ふん。なんとでも言いやがれ」

そう言いながら跡部は自分のバックからホッチキスを取り出した。

Myホッチキス持ってんの!?とツッコミそうになったけど、普通ではないそのホッチキスに、「なにそれズルイ!!」とツッコミの代わりに不満の声が漏れた。


だって跡部が取り出したホッチキスは、手に持つのではなく机の上に置くもので、しかも止め口に紙を持っていけば、自動に閉じてくれるのだ。

そんなものがあるなんて……。

私の親指は腱鞘炎を起こす寸前だと言うのに。


だけど跡部のそのアイテムのおかげで、プリント閉じはスムーズに進んだ。


「俺様のおかげだな」

「この電子ホッチキスのおかげでしょ?」

「素直じゃねーな」

「え? 知らなかったの?」


まるで小学生の子供みたいな会話を交わしながら作業を進める。

機能的なホッチキスのおかげでもあったけど、誰かとおしゃべりしながらの作業はそれほど苦痛を感じる事もなく、ちょっと楽しいかも……なんて思いだしていた。


――そんな時だ。

跡部が不意にその言葉を発したのは。


「……お前、好きな男とかいないのか?」

「何‥‥急に」


まさか跡部からそんな質問をぶつけられるなんて。

驚きに作業の手が止まる。


「まあ、好きな男がいようがいまいがどっちでもかまわねーけどな」

「はあ?」


自分で聞いておきながら、私が答える前に話を完結してしまった。


いようがいまいがどっちでもいいって‥‥。

なら、そんな質問しなきゃいいじゃん。


別に跡部に興味をもたれなかったことが悲しいとかいうんじゃないけど、

なんとなくモヤモヤとした気持ちになってしまう。


「何怒ってやがる?」

「別に怒ってないけど‥‥」


そう言いながらも、声に不機嫌さが滲む。

すると跡部は、フッと小さく笑みを零した。


「おい。勘違いするな。今のは別にお前に興味がないと言う意味じゃない」

「か、勘違いとかしてないし‥‥」

「好きな男がいようがいまいがどっちでもいいって言ったのは……」

「だから別に、言い訳とかしなくもいい――」


そう言い掛けた言葉は、跡部のあまりに真剣な瞳に、途中で止まってしまった。


「いないなら好都合。いるなら心変わりさせるまで」

「……え?」

「今お前の心が誰にあろうと、最終的には俺を好きになる。だからどっちでもいいって言ったんだ」


ああ、そうなんだ。

なんて笑って答えればいいのだろうか?

だけど経験値の低い私にそんな高度な技を繰り出すのは不可能だ。

呆然と跡部を見つめながら、ショート寸前の思考をフル回転させる。


今のはどういう意味で受け取ればいいのだろうか?

好きな人がいないなら好都合?

いるなら心変わりさせる?

それって……。


「もしかして跡部……私のこと好きなの?」


思わず口にしてしまった言葉に、跡部がグッと顔を寄せてきた。


「ああ。好きだぜ」

「え?」


はっきりと耳に届いた言葉。

聞き間違いではないとわかりながらも、聞き返さずにはいられなかった。

跡部は真っ直ぐに私の瞳を見つめながら、きっぱりとした声でこう言った。


「――お前が好きだ」


時間が止まったように感じるというのはこういうことかも知れない。

鼓動も、呼吸さえも止まったように全てが静止する。


跡部が――私を好き?

跡部が‥‥私を‥‥。


「‥‥っ」


徐々に脳が跡部の言葉を理解していく。

それに伴い、鼓動が早まり、体温が上昇する。


「ククッ。顔、真っ赤だぜ」

「っ!」


おかしそうに口元を歪めて笑う跡部。


言われなくたってわかってる。

湯気が出そうなほど顔が熱い。


「フンッ。俺を意識してるのか?」

「なっ……」

「そのままもっと意識して、俺のことを好きになれよ」


私が跡部を好きになる?

そんなこと考えた事も無かった。


「急にそんなこと言われても……」

「別に今すぐ好きになれとは言ってねーだろ」

「そう‥‥だけど‥‥」


自分が跡部を好きになるなんて、全然想像できない。

「好きになれ」と言われて好きになれるものなのだろうか?


オーバーヒートで煙を上げる寸前の頭で必死に考えを巡らせていると、

机の上に投げ出されていた私の手に、跡部の手が重ねられた。


「‥‥っ」


慌てて引っ込めようとするが、すかさずギュッと握られてしまった。

跡部の体温が指先から伝わる。


振り払おうと思えばできるはずなのに……。

何故かそれ以上抵抗する気になれず、手を握られたまま跡部を見つめた。


「お前、今どんな顔をしてるかわかってるのか?」

「え?」

「……あまり俺を煽るなよ」


そう言ったかと思うと、跡部は私の手の甲に静かに口付けた。


「あ、跡部っ!!」

「あーん?」

「い、今・・・・・」

「なんだ? 手にキスしただけだろう? 本当なら唇にしたいのを我慢してやったんだ」

「なっ・・・・・!?」

信じられない! 信じられない!! 信じられない!!!!!

なにが我慢してやったよ!!

なぜに上から目線?

知ってたけどね。跡部が俺様ってことくらい知ってたけどね!

どこまで俺様!?


椅子を立ち上がって後ずさりする私を追うように、跡部がじりじりと近づいてくる。

私が一歩下がれば、跡部が一歩詰め寄る。

距離が開くどころかどんどん近くなって、最後は壁に追いやられてしまい逃げる場所がなくなった。


告白されて怯えるなんておかしな話のようだけど、今の私は蛇に見込まれた蛙状態だ。

そんな私を笑うかのように、跡部は壁にへばりつく私の顔の横に手をついて、鼻先同士が触れそうなほど顔を近づけてきた。


「どうだ? 俺を意識せずにはいられなくなっただろ?」

「そ、そんなわけ……」

「そうか。まだ足りねぇか」

「え……?」

「俺は……跡部景吾は、塚本菜都に惚れてる」

「あ、とべ……」

「お前が好きだ」

「――お前が、好きなんだ」


何度も何度も繰り返される「好き」という言葉に、眩暈を起こしそうになる。

このまま本当に眩暈を起こして気を失った方がいいかもしれない。

だけど私の神経はそれほど繊細でもなく、クラクラとしながらもしっかりと跡部の言葉を捉える。

「そ、そんなに……好き好き言わないでよ……」

「それは無理な相談だな」

「なんで?」

「脳に俺の声がインプットされるまで言い続けてやる」

「は……?」

「いつだって俺を思い出せるように、その脳に叩きこんでやるって言ってるんだ」

「なにを馬鹿な……」

「ほら、しっかり聞けよ」

「ちょっ……」

「好きだぜ」

耳に囁く声が、脳にじわりと染み込んでいく。

跡部の言われるがままになるのは悔しくて、なんとか意識を他にずらそうとするけど、そんなことはさせまいと次々に言葉が追いかけて来る。

恥ずかしさとありえないほどのドキドキに、涙が滲みそうだ。

睨みつけてみても、ものともしないどころか、憎らしいほどの笑みを浮かべるばかりの跡部。

その余裕がまた腹立たしい。


「言っておくが、俺は釣った獲物に餌はやらないなんて小さな男じゃないから安心しろ」

「どういう、意味?」

「俺の女になっても、愛情表現はたっぷりしてやるって事だ」

「だ、誰もそんな心配してないし……」

「俺の女になったら、今以上に愛してやるよ」

「っ!!」

「だから、早く俺を好きになれよ」


あぁ……どうしてこんな事になったのか?


担任の頼みを断らなかった事を、本気で悔やんだ瞬間だった。




――あれから2週間。

跡部は目を合わせても近づいてくることはない。

私から返事を伝えに来るまで待っているつもりなんだろう。


記憶の中に残る「好きだ」という言葉に、心臓を乱しながらも、

それだけじゃ物足りなくなっている自分がいる。

これも跡部の作戦なのだろうか?


悔しいけど、私は跡部の罠に落ちてしまったのだ。


だけど素直に認めるのはなんだか悔しい。

かといって、このままの状態でいるのも、もう耐えられそうにない。


仕方ない。

お腹を満たしたら、跡部に声を掛けてみよう。


「プリント閉じ、また手伝って欲しいんだけど」


そう言ったら、跡部はどんな顔をするだろう?

きっと意地悪そうに微笑むに違いない。

そして私はそんな跡部に、悔しく思いながらもときめいてしまうのだ。


「跡部のバーカ」

絵の中の跡部に捨て台詞を残し、私は教室に向って歩きだした。


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久々の夢小説。

なっちゃんのプログ5周年のお祝いに書いてみました。

やっぱ私、夢小説の方が書いてて楽しいや。ww

背景描写や心理描写も、無駄にダラダラ書きたい!



なっちゃん、ブログ5周年おめでとう。

コメント残せずごめんね。

色々思うところもあるけど、お祝いしたい気持ちは嘘じゃないので、

プレゼント受け取ってもらえると嬉しいデス。

段々寒くなってきたけど、体調崩さないようにね。

とくに喉。なっちゃん喉弱いからね。

最後に。

ブログ、続けてくれてありがとう!



4時に起きて、5時に家を出て、6時の新幹線に乗って、9時半に武道館へ到着。

11時頃まで物販に並んで、12時からテニフェスでフィーバー。

3時に終わって、そこから昇華の病院へ。

途中腹ごしらえをして6時頃に病院着。

7時までの1時間でマシンガントークを繰り広げ、別れを惜しみ?ながら帰路へ。

9時に東京駅に着き、12時前に大阪着。1時前に帰宅。


ってなわけで、テニフェス行ってきました。

仕事の関係で日帰りでしか無理やったので、

かなりハードスケジュールでしたが、行ってよかった!

締め切り間近の仕事を頑張れるだけの充電は出来た。


今回のテニフェスはちょっと諦めてたんですけど、

藍ちゃんが誘ってくれたことで行くことを決心。

3年振りの藍ちゃんは大人の女性になっててビックリ。

昇華は相変わらず昇華でしたww


色々書きたいことはいっぱいあるけど、とりあえず仕事しないとヤバイので、

仕事が終わったらゆっくり更新しようと思います。

それまで記憶が残ってるのかはわかりませんがね。←