プチ連載 『うわき×浮気=?』  第二話 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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うわき×浮気=?



4時間目が終わってすぐ、携帯にメールが届いた。
開けばいつものように1行メール。


『生徒会室にいる』


お弁当箱を手に、指定された生徒会室へ向かう。
辺りを見渡して誰もいないことを確認した後ノックを2回して、返事を待たずに扉の向こうへ身体を滑り込ませた。



「まだ返事をしていないぞ?」
「そんなの待ってて誰か来たら困るでしょ?」



別に許可をもらう為にノックしたわけではなく、私であると知らせる為なのだから返事なんて必要ない。


私のその返答の、何がおかしかったのかはわからないが、柳は「フッ」と笑う。
教室では見せる事のないその微笑に、心に温かいものが広がる。

机にお弁当箱を置くと、椅子に座ったままの柳が私に向かって両腕を広げた。

広げられた腕の中へそっと身体を寄せれば、大きな手が私の髪を優しく梳く。

何度かそれを繰り返していた柳の手が、私の顎に添えられて上を向かされた。

されるがままに柳を見つめると、欲望を湛えた目が私を見つめている。


キュンと子宮が疼く。

この目に見つめられるだけで、身体が熱くなる。


そっと目を閉じると、すぐに唇が重なった。

1度重なった唇は角度を変え、深さを増す。


柳の指がブラウスのボタンを外していく。

私も柳のシャツのボタンを1つ1つと外した。



柳に抱かれたあの日から、私は毎日のように柳と身体を重ねている。

心が弱ってたとはいえ、柳と身体の関係を持ってしまった事に、最初は罪悪感と後悔で胸が押しつぶされそうだった。
情事が終わり、冷静になっていく頭で、私はなぜこんな事をしてしまったのかと自分を責め、涙を流した。
そんな私を柳は、ただずっと抱き締めてくれていた。

本当なら突き飛ばして、「もう二度と近づかないで!」と言うべきなんだろう。
だけど私はその腕から抜け出す事も、突き放す事もできなかった。

次の日も、その次の日も、私は柳に身体を許した。
ダメだと自分を責める気持ちの裏で、その温もりを欲していたのも事実だった。

広がる罪悪感と、自分の弱さへの嫌悪。
でも、抱かれている間は私の心も身体も満たされていて、彼氏に浮気された事も忘れられた。

数を重ねるごとに罪は深く、大きくなる。

なのに……


罪の大きさに反して、私の中の罪の意識が、薄れてきている事に私は気づいていた。
あれほど苦しかった浮気されたことの悲しみも、それほど感じなくなってきたことも……。


それは私も同じ罪を犯してしまったからなのか……?
それとも彼氏への想いが薄れてしまったからなのか……?

答えは出ないまま、今日も私は柳に抱かれる―――――





柳と体の関係を持ってしまってから2週間経った今日。

彼氏である侑士からデートに誘われ、待ち合わせのカフェにやって来た。


侑士はまだ来ていないようで、少しホッとする。

いつもなら侑士が来るまでなにも頼まずに待つのだけど、この緊張を落ち着かせようと、ロイヤルミルクティーを頼んだ。



柳に抱かれるようになってから侑士に会うのは初めてで、侑士の浮気を知ってから会うのも初めてだ。


どんな顔をして会えばいいのだろう?

普通に話しなどできるのだろうか……?


不安が大きくなっていく胸を抑えながら、私は大きく息を吐きだした。



侑士の浮気を見つけたのは、柳に屋上で抱かれた前日の事だった。


前々から浮気をしているのではないかというは疑惑は抱いていた。
いや、本当は気づいていた。


『侑士は浮気をしている』そう確信していた。


特に証拠があったわけでも、誰になにを言われたわけでもない。
これが女の勘というヤツなのだろう。


だけどそれを正面から受け止めるだけの強さは私にはなく、目を背け続けるしか出来なかった。
そうする事で自分の心を守っていた。


怖かったのだ。

浮気を追及してウザがられる事が。
そして別れを切り出されてしまう事が……


学校も違うし、実際彼の浮気を目の当たりにした事はなかった。

「俺が好きなんはハルカだけやで」
そう言って抱き占めてくれる侑士の言葉を信じ、その言葉にしがみ付くしかなかった。


だけどあの日――――


侑士の家に遊びに行き、いつものようにイチャイチャとイチャいて、そういう雰囲気になった時
ゴムを取り出そうとした侑士が「あ……」と、顔をしかめたのを私は見逃さなかった。


「そういやゴムないんやった。ちょう買って来るわ」


すぐにいつもの優しい笑顔に戻った侑士は、空箱をゴミ箱に捨てながら私の額に口付けをし、部屋に私を残してコンビニに出かけた。
行ってらっしゃいとにこやかに見送ったものの、私の心はざわついていた。


確かこの間、1つ残ってたはずなのに……。
「ラス1や。また買っとかなあかんわ・・・・」確かに彼はそう言っていた。

もしかしたら気づかなかったのかも?と、侑士が捨てた空箱をゴミ箱から取り出した。


振ってみるとカサカサと小さな音が鳴った。
だけどゴムの音ではなさそうだ。
説明書かなにかだろうか?


とりあえず箱を開け、開け口を下にして中身を振り落とした。
なんの音もなく、小さな紙切れのようなものが数枚シーツの上に落ちた。


「なにこれ……?」


摘み上げてそれを手に取った瞬間、全身が一気に冷たくなった。


見知らぬ女の子と侑士がキスしているプリクラ。
抱き合いながら唇を合わせたり、頬を寄せ合ったり……
どう見ても普通の友達ではないだろう。

落書きの文字では『ラブラブ』とか『侑士ダイスキ』などと書かれていた。

震える手でそれを見ながら、ふとそこに書かれた日付に目が止まる。


この日付……昨日?


ちょうどその時鞄の中の携帯が鳴り、私は肩を跳ねさせた。
慌てて出たため相手の名前を確認しなかったのだが、受話器の向こうから聞こえた声は侑士の声だった。

動揺を悟られないよう振舞ったが、何を話したかはあまり覚えていない。
何か飲み物いるか?とか、そんなことだったと思う。


電話を切った後、どうしたらいいのか考えたけど、半パニック状態の私には何も考えられなくて、
とりあえずなかった事にしようと空箱にプリクラを戻し、ゴミ箱の蓋を開けた。


私はそこでプリクラ以上に最悪なものを目にしてしまった。

丸められたティッシュから少しはみ出たピンク色のビニールのようなもの。


これって……?

違うよね?
でも……見覚えがある。


見てはいけないと第6感が告げている。
それを見てしまえば全てが終わると……。


だけど私はゆっくりとソレに手を伸ばした。


張り付いたティッシュを剥がせば、覗いたのはやはりゴム。
そしてそのゴムは、わかりきった事だけど使用済みだった。


愕然として、全身の力が抜け落ちる。
口から漏れた言葉は「やっぱり……」だった。



それから侑士が帰ってくるまでの数分。
私は全てを元に戻し、何もなかったかのようにした。


プリクラを見た時は頭が真っ白になったけど、
今度は不思議と冷静に考える事ができて、帰ってきた侑士も普通に迎える事ができた。


ただ他の女を抱いた手で抱かれるのかと思うと吐き気がして、
「気分が悪くなった」と、付き合って以来初めて侑士の誘いを断ったのだった。


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浮気をするならバレないようにしましょう。←