暖かな風に髪がなびく。
季節はすっかり春だ。
お花見をするにはもう遅すぎるけれど、散歩をするにはちょうどいい気温。
昼から彼氏である真田を誘って公園にくれば、私達と同じ様に気ままに春の暖かさを楽しむ人の姿で溢れていた。
青葉をつけた街路樹。
キラキラと太陽の光を反射する池。
特別珍しいものでもないのに、心が癒されていくようで、私は静かに目を閉じて息を大きく吸い込んだ。
「はぁ~。気持ちいい」
「けしからん!」
清々しさを胸いっぱいに取り込んでいた私の隣で、真田が厳しい声を上げる。
また始まった。
真田の視線を辿ればなにが『けしからん』なのかは聞かずともわかる。
それでも一応私は、真田に問いかけた。
「なにがけしからんなの?」
「見てみろ。こんな人の往来場所で、あんな・・・・・・あんな・・・・・・」
「あんな・・・・・・なに?」
「破廉恥な!」
破廉恥なんて言葉を顔を真っ赤にして叫んでる真田の方がけしからんように思うけど・・・・・・。
芝生の上で膝枕をしているカップル。じゃれあうようにキスを繰り返すカップル。
周りの目など気にもせず2人の世界を作り上げている恋人達。
これが知り合いだったりしたら気まずくて仕方ないんだろうけど、まったくの他人となれば、ラブラブだな・・・・・・ってな感想しか浮かばないから不思議だ。
だけど真田は人前で『そういう事』をするのが信じられないようで、怒りと羞恥が混じった顔で「けしからん」を繰り返している。
通り過ぎる人が何事かとチラチラとこちらを見てくるけど、真田はまったく気づいていないようだ。
もう・・・・・・恥ずかしいなぁ。
でもこれくらいで顔を真っ赤にしているなんて、ちょっと可愛い。
真田を見て可愛いなんて言うのはきっと私くらいだろうな。
それほどに真田に惚れてるってことだよね・・・・・・。
胸がキュンとなって、好きが溢れてくる。
今にもイチャつくカップルのもとに怒鳴りこみに行きそうな真田の腕に、しがみ付く様に自分の腕を絡ませた。
「私も真田とイチャイチャしたいなぁ」
「な、なにを急に言い出すのだ!?」
上目遣いに真田を見上げながらちょっと甘えた声を出す。
真田は慌てたように仰け反り、忙しなく黒目を動かす。
「真田は私とイチャイチャするの嫌?」
「い、嫌なわけがなかろう!!」
そんな大きな声で否定してくれなくてもいいんだけど。
でも必死な思いが伝わってきて、私は嬉しさに頬を緩ませた。
「じゃあ、私達もあそこに座ろうよ」
「いや・・・・・・しかしだな・・・・・・」
「真田は私のお願いより、周りの目の方が大事なの?」
「そ、そういうわけでは…・・・」
きっと心の中で必死に葛藤してるんだろう。
イチャつくカップルを見ては顔をしかめ、私を見ては困ったように眉を寄せる。
このまま挙動不審な真田を観察するのも楽しいけど、今は少しでも早く真田と甘い時間を過ごしたい。
「ねぇ~真田ぁ~」
駄々を捏ねるように体を左右に揺らしながら唇を尖らせる。
真田は顔を真っ赤にしながら、やっと首を縦に振ってくれた。
「やった!真田大好き!!」
真田の腕を引き、池の前にあるベンチに座る。
ベンチの後の木が人目から私達を隠してくれている。
「ここなら人目も気にならないでしょ?」
「む……まぁ……う、む……」
それでもやっぱり気になるのか、真田は辺りを伺うように首を左右へ動かしている。
だけど私は素知らぬ振りで、真田に甘えるようにしなだれかかった。
「ねぇ、まずなにする?」
「な、なにとはなんだ?」
「私は……真田とキスがしたいな」
顎を突き出すように真田を見上げ、そっと瞳を閉じた。
目を閉じていても、真田の動揺振りが安易に想像できて、ちょっと笑いそうになる。
本当に、純粋で可愛い人。
いつまでも代わらず、そのままの真田でいてね。
遠慮がちに唇が触れる。
だけどそれはすぐに離れてしまう。
「足りない」と態度で示すように、目を閉じたまま動かずにいると、真田の戸惑った声が聞こえた。
「しょ、昇華……?」
それでも私が目を開かずにいると、今度は少し長めにキスをしてくれた。
このままずっと目を閉じたままでいたら、真田は何回キスしてくれるのかな?
そんな意地悪な事を思ってしまうほどに、真田が大好きで仕方ない。
回を重ねるごとに長くなる口付け。
柔らかくて温かい口付けは、春風のように私の心を優しく包んだ――――
春の恋は大胆に
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ヒロインにだけは甘い真田の話が読みたいと言われたのに、
ヒロインが真田を大好きな話しになってしまったww
入院生活に少しでも潤いを……と思って書かせてもらいました。
早く元気になって~って言いたいけど、無理せず焦らず、しっかりと治してきてね!!