コラボ連載 『ONE STAR』  Boy's side 5 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

続き物になっています。お先にこちらからお読みください。

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ネットの向こう側のコートには、ゴロゴロといくつものボールが転がっている。

あとで拾い集めるん大変そうやな・・・とか、喉渇いてきたわ・・・とか思いながらも、俺はただボールを打ち続けた。


こんな事で邪念が払えるとは思ってへん。

俺かてそんな単純やない。

そやけどこうでもしとかんと、俺はすぐにでも保健室に駆け込んでしまいそうやった。



ONE STAR Boy's side 5



佐藤が倒れたその瞬間を、俺は遠目で見とった。


はっきりとは見えへんけど、あのこけっぷりからして膝を擦り剥いてるかもしれん。

すぐに駆けつけて、「大丈夫か?」って言ってやりたい。

負ぶって保健室につれていってやりたい。

だけどさっき自分で言うた言葉が、俺をその場に留める。


俺は痛いほどに拳を握り締めながら、一人足を引き摺りながらグラウンドを後にする佐藤の姿を見送った。


昼になり、教室が一気に騒がしくなる。

その中で、佐藤の鞄から弁当を抜き取り教室を出て行こうとするあいつの友達の背中を、俺は慌てて追いかけた。

人気が少なくなった階段辺りで声をかける。

少し驚いた顔で振り返ったそいつに、「佐藤のとこ行くんか?」と聞いた。




「・・・・うん。」

「悪いんやけど・・・・・ちょっとだけ俺に付きおうてくれへんか?」

「え?」

「そんな時間はとらさんから。」




少し身構えるそいつに苦笑いを返し、返事を待つことなく先を歩きだす。

少しの間なんか考えとったようやけど、そいつは何も言わず俺の後を付いて来てくれた。


向かった先は売店横の自販機。

そこで小銭を数枚入れ、点灯したボタンを指で押す。

ゴトンと音と共に落ちてきたソレを広い上げ、俺はそいつに手渡した。




「これ、佐藤に渡してくれや。」

「え?」

「俺からって事は伏せて渡してもらえたら助かるんやけど・・・。」




俺等の事をどこまで知ってるんかはわからんけど、ある程度の事は察してるやろう。

そいつは俺の顔をしばらく見つめたあと「わかった」と一言だけ口にして、俺の渡したペットボトルを手に保健室へと向って行った。




今頃佐藤はあのスポドリを飲んでるやろか?

ちょっとでも元気になったならええけど・・・・。

やっぱ靴箱での一件が原因なんやろな。

いや。寝不足らしいとクラスで誰かが言うとったし、俺の全てが原因なんやろう。


近寄らんから俺の気持ちと存在をから目を逸らさんとってくれなんて、余計にあいつを悩ませるだけやったか?

でも・・・・・好きなんや。

どんなに拒否られても、あいつを苦しませることになっても、この気持ちだけはどうしようもない。

好きになること自体が罪なんやろか・・・・?

あいつにとってはこんな気持ち、迷惑なだけやったんやろか・・・・?


色々考えすぎとったせいか、いつの間にか俺はラケットを持つ手を下に揺らせたままただ立ちつくしとった。

ボーっとコートの向こうに散らばる黄色い球を見つめながら、肩を上下させ荒い息を吐き出す。


どれくらい経ったやろ?

そろそろ昼休みは終わるやろか?

このままサボってしまおか?

そしたら佐藤に会わんですむ・・・・・・・


そこまで考えた時、聞こえるはずのない声がコートにこだました。




「謙也っ!」




振り返った先に、居るはずのない姿が見える。


疲れすぎて幻聴が聞こえるんやろか?

佐藤のこと考えすぎて幻覚が見えるんやろか?


真っ直ぐに俺を見つめながら立つ佐藤の幻が、もう1度俺の名前を呼ぶ。

あまりにはっきり聞こえるその声に、俺は目を見開いた。




「佐藤・・・・?」

「謙也。私・・・・・・」

「お前・・・・なんでこんなとこおんねん。」




あいつは今保健室におるはずで・・・・・

俺の事を避けてるあいつが俺の前に自ら来るはずはなくて・・・・・

なのに目の前には、夢でも幻でもない『佐藤』がおって、俺の名前を呼んでる。


頭が混乱してなにがなんやらわからんくて、思わず佐藤の方へと歩み寄る。

やけどその瞬間「そのまま!!そのまま・・・・そこで話聞いて。」という佐藤のやや大きめな声に静止させられて、やっと俺は、あぁ、これは間違いなく現実やと理解した。


汗が額を流れる。

ベンチに置いたタオルを取りたいところやったけど、今動いたらまた佐藤をビビらせてしまうやろうから、仕方なくリストバンドで我慢した。


佐藤はしばらく息を吸ったりはいたりを繰り返した後、ゆっくりと顔を上げた。

何かを覚悟したような力強さを感じる瞳に、佐藤が今からなにを言おうととしてるんか俺は一瞬にして悟った。




「私・・・・・謙也の事仲のいい友達やと思っとったし、謙也も私の事そう思ってると思っててん。」

「うん・・・・。」

「せやから好きとか言われて、どうしたらええんかわからんくて・・・・・・な。」

「うん。」




頭の中で考えて必死に俺に伝えようとしている佐藤の言葉を、俺は頷きながら聞いた。

できることならこの先の言葉は聞きたない。

やけど佐藤が出した答えなら、俺は正面から受けとめなあかん。


佐藤の気持ちから逃げ出さんように、佐藤の瞳を真っ直ぐに見据えた。




「私な、まだ恋愛とかしたことないねん。」

「うん。知ってる。」

「勝手に私が思い込んでただけやけど、謙也もそうやと思っててん。」

「それも知ってる。」

「そ・・っか・・・・。でも私はほんまにそう思ってたから・・・・・謙也が私を好きとか・・・・・裏切られたじゃないけど、ショックやった。」

「うん・・・・。」

「それに私の知らん感情を知ってるんやと思うと、急に大人びえて見えたって言うか・・・・・別人に見えて怖かった。」

「・・・・・・うん。」




俺・・・・・今から振られるんや。

今でも十分振られてるようなもんやけど、佐藤の口から「ごめん」とか言われたら、ほんまに立ち直られへんかもしれん。

「ええよ。ありがとう。」なんて・・・・笑って言える自信なんかない。

今まで通り友達に戻ろうなんて・・・・・言われへん。


ちゃんと最後までしっかり目見て、あいつの気持ち受け入れな。

そう思うのに、視線がどんどん下がっていく。



「でもな!」




下降して行く俺の視線を留めるように大きな声が響いた。

その声に少しだけ視線を上げれば、涙をいっぱいに溜めた瞳が俺を見つめとって、俺はハッと息を飲んだ。




「謙也にもう近寄らんって言われて、ショックやった。」

「え・・・?」

「好きって言われた時より、ううん。そんなん比べもんにならんくらい・・・・ショックやった。」




なに言うてんねんこいつは?

俺が近寄ったら怖いねんやろ?

だから距離おこうて言うたんや。

そやのに近寄らん言われてショックやったって・・・・。


そんな事、そんな顔で言われたら・・・・・・期待してまうやんけ。

あかんあかんと思いながらも、心にさす光の強さが増して行く。

期待が膨らんで心臓を打つ鼓動が大きくなる。




「今まで通りなんて無理やけど・・・・謙也を遠くで見てるだけなんて嫌や。」

「お前・・・・・何言うてんのかわかってんのか?」

「めっちゃ勝手なこと言うてると思うけど!それでも・・・・・謙也が離れてしまうんは嫌やねん。」




潤んだ瞳で上目遣いに俺を見つめる佐藤に眩暈を起こしそうになる。

こいつ・・・・わざとか?俺を煽ってんのか?

そんなつもり毛頭ない事はわかってるけど、好きな女にそんな顔でそんなこと言われたら、理性も吹っ飛ぶっちゅーねん!

地獄から一気に天国に上りつめたような気分とはこういう事かもしれん。

さっきまでうじうじ悩んでた事なんてすっかり頭から消えて、今は叫びさしてしまいそうなほどの嬉しさで溢れる。


もうあかんわ・・・。


俺は遠慮しとった佐藤との距離を詰め、急に近寄ってきた俺に驚く佐藤の前に静かに立った。




「先に謝っとくわ。すまん。」

「え?」

「ちょっとでええから・・・・・・我慢しとって。」





佐藤が口を開く前に、俺は佐藤を腕の中に抱いた。

ビクッと体が震えて、ハッと息を飲む音が聞こえる。

それでも暴れたりせず俺の腕の中に大人しく収まってる佐藤に、俺はホッと緊張を解いた。

ガチガチの体。顔は見えんけど、強張ってるかもしれん。

そんな佐藤に、俺はできるだけ穏やかな声で話し掛けた。




「なぁ、佐藤。」

「な、なに・・・・・」

「佐藤は・・・・・俺のこと好きか?」

「え!?」

「あ~ちゃうちゃう。その・・・恋愛感情とか抜きで、人としてって言うか・・・・『忍足謙也』ってヤツの事好きか?」




無意識なんか、意識的になんか・・・・。

佐藤の指が俺のシャツを握り締める。

それが俺を拒否してないとでも言うてるようで、苦しいほどに嬉しさでいっぱいになる。




「そんなん・・・・・・好きやなかったら友達なんてしてへん。」




しばらくして、蚊の鳴く様な声が腕の中から聞こえた。

それは今の俺には、なによりも最高の言葉やった。




「そっか・・・・。ん。今はそれでええわ。」

「え?」

「今は人として俺の事好きやと思ってくれてるだけで十分や。」

「謙也・・・。」

「ま、いつか男として俺を好きになってくれたら嬉しいけどな。」




冗談混じりにそう言えば、佐藤が「あほ」と呟く。

俯いとって顔は見えへんけど、髪の隙間から覗く耳が赤い。

もしかして照れてるんやろか?

今までとは明らかに違うその反応に、俺は大きな満足感を感じた。


俺と佐藤は、やっと一歩を踏み出した・・・・・・・そんな気がした。


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久々のコラボ連載。


ヒロインちゃん頑張った!

謙也も頑張った!!

しかしあまり暴走し過ぎないように!!


続きはなっちゃんにおまかせ~!!

よろしくー!!!

⇒ Girl's side 5 (UPされ次第リンクを貼ります)