今日の国光はどこかおかしい。
なにがって?
全てが。
今日は休日。
予定もない私は昼前までベッドの中で寝ていた。
そんな私を、眠りの世界から引きずり出したのは国光からの電話だった。
一気に目が冷めたのはいうまでもない。
まず国光から電話がかかってくること自体珍しい。
なのに受話器から聞こえた言葉にさらに驚いた。
『デートでもしないか?』
国光がデートのお誘いをかけてきた!?
寝ぼけてるんじゃないかとか、空耳だったんじゃ?とか思ったけど、夢でも聞き間違いえもないようで、
淡々と待ち合わせ場所と時間を告げた国光は、「では待っている。」と電話をきってしまった。
急いで準備をして待ち合わせ場所に向かえば、本当に国光はそこにいて、私に気づくとふっと優しい目をした。
よく知る人でなきゃ気づかないその表情に、ほわりと胸が温かくなる。
「どうしたの?」と問えば、「綾女に会いたかった」なんて言うからこれまたびっくり。
どうしたんだ一体?
どこかおかしくなったんだろうか?
怪訝がる私の頭を軽く叩いた国光は、そのまま私の手を取って歩きだす。
いつも私からお願いしないと手を繋いでくれる事なんてなかったのに・・・。
休日を楽しむ人で賑わう街路を、国光と並んで歩く。
国光といる時は静かな場所を選ぶ事が多いから、こんな風に騒がしい場所で一緒に歩いているなんて不思議な気分になる。
さり気なく人の少ない場所へと手を引いてくれる国光にドキドキしながらも、いつもと違い過ぎる国光に戸惑ってしまう。
「ねぇ。何かあったの?」
「何かとは?」
「それはわかんないけど・・・・どうしちゃったの?」
「なにがだ?」
「だって国光変だよ?」
素直な気持ちをそのまま口にすると、国光は少し困ったような笑いを浮かべて「変か・・・?」と呟く。
そんな風に笑われると「変だよ!」と強くも言えなくて、「変って言うか・・・いつもと違うから・・・・」なんてごにょごにょと歯切れの悪い返事を返した。
このままじゃ気まずくなってしまう気がして、私は咄嗟に目に付いた雑貨屋を指差す。
「あそこ、見てもいい?」
「あぁ。」
ちょっと無理やり過ぎたかな?と思ったけど、国光は緩やから笑みを浮かべうなずいてくれた。
落ち着いた大人な雰囲気の漂う店内には男性客もけっこういて、国光も目に付いたものを手に取っては眺めている。
国光が浮いているなんて事はまったくなくて、むしろすごくしっくりきていてちょっと見惚れてしまうほどだ。
じっと見つめて要る私の視線に気づいたのか「どうした?」と首を傾げられて、「なんでもない」と慌てて目を逸らす。
だけど国光は手に持っていた物を棚に戻し、私の方へ寄って来た。
「なにか欲しい物でもあったのか?」
「え?えっと・・・・こ、この中でどれがいいかな・・・・・・って悩んでて・・・・・」
ただ国光に見惚れていただけなんて言えるはずもなくて、前の棚に並んでいた物を適当に指差す。
国光は私の適当な嘘を疑う事もなく、私の指の先へと視線を移した。
私も自分が何を指差したのかと視線を向ける。
そこには、バレッタやピンなどのヘアアクセが並んでいた。
適当ではあったけど、どれも可愛くて本当に買っちゃおうという気持ちになる。
「これ可愛いかも・・・・・」
「ああ。いいんじゃないか?」
「でもこれもいいかも。」
「綾女によく似合いそうだな。」
「こっちも捨てがたいな・・・・」
うんうんと悩んでいると、フッと笑みを含んだ吐息が聞こえた。
国光を見れば優しい瞳で私を見ている。
ヘアアクセごときで真剣に悩んで呆れられたかと思ったけど、「お前は本当に可愛いな・・・・」なんて言われて一気に顔が熱くなった。
「な、何言ってんの?」
「本当の事を言っただけだ。」
「そ、そんな冗談言う暇があるなら、どれがいいか選んでよ・・・・。」
照れている事と赤くなった顔を隠すように、怒ったような口調でふいっと顔を逸らす。
だけど国光には全てお見通しのようで、軽く頭を撫でられた。
国光といるとドキドキする。
国光が好きだから、傍にいるだけでドキドキする。
だけど今は違う。
そういうドキドキとは全然違う、もっとすごいドキドキ。
自分じゃコントロールできなくて、心臓が破裂してしまうんじゃないかってくらいドキドキしている。
やっぱり今日の国光は変だ。
私をこんなにもドキドキさせるなんて・・・・・。
私が一人ドキドキしている間に、国光はヘアアクセを1つ選んでレジで会計を済ませていた。
慌てて財布を取り出す私に、「プレゼントだ」と小さな袋を手渡す。
軽いはずなのにとても重くて、温もりなどあるはずもないのにとても温かく感じた。
少し休憩でもしようかと、オープンテラスのあるカフェへと入った。
時間のせいか店内にはお客の数が少なく、季節のせいかオープンテラスには誰もいなかった。
私と国光はオープンテラスの一番奥に座り、お互いケーキセットを頼んだ。
「国光がケーキセットなんて珍しいね。」
「そうすれば2種類のケーキが食べれるだろう?」
「え?」
「どっちも食べたそうだったからな。」
もしかしてそれって私の為?
確かにミルフィーユとフルーツタルトのどっちにしようか悩んでいたけど・・・・。
また国光の優しさを感じてドキドキが増す。
「ありがとう」なんて恥ずかしくて、「太ったら国光のせいだから」と可愛くない言葉を返した。
素直にお礼は言えなかったけど、ケーキは素直に頂いた。
どちらのケーキも美味しくて、お腹も心も満足の私。
紅茶で一息ついている時、不意にさっきのヘアアクセの存在を思い出した。
「そうだ。さっきのプレゼント開けてもいい?」
「ああ。」
あの中から国光はどれを選んでくれたのかな・・・?
テープを剥がし開いた口に指を入れ、摘むようにしてそれを取り出した。
中から出てきたのはループリボンのバレッタ。
シンプルだけど真ん中のビーズが可愛くて、サテンのリボンが大人っぽさを感じさせる。
店で見た時もいいな・・・と思ったけど、国光が選んでくれたものだと思うとさらに素敵に見える。
今度は自然と「ありがとう!」の言葉が口から零れた。
軽く結った髪に挿してあったピンを外し、買ってもらったばかりのバレッタを着ける。
鏡がないので感覚でつけた私は、「どう?」と後ろを向いて髪を見せた。
「似合う?」
「ああ。とても似合っている。」
「ほんと?」
「ああ。とても・・・・可愛い。」
少し照れたような声に振り向けば、照れくさそうにする国光がいて、私の方が照れてしまう。
なんなのホントに・・・・・・・・
調子狂っちゃうよ・・・・・もう。
それでも好きな人に『可愛い』と言われて嬉しくないはずもなくて、私の顔は緩みまくりだ。
その顔を両手で抑えながら、もう1度「ありがとう」と微笑めば、椅子から軽く腰を浮かせた国光が、静かに、だけど素早く顔を近づけてきた。
え?と声にする間もなく唇が重なる。
柔らかく温かい感触に心臓が刺激され、バクバクと踊りだした。
「く、国光!?」
「甘いな・・・。」
「そりゃケーキ食べたから・・・・・・」
ってちがーう!!
なに!?
いきなりキスって・・・・どういうつもり!?
キョロキョロと辺りを見渡す私に「誰も見ていない」なんて冷静に答える国光が憎らしい。
こんなにも私をドキドキさせておいて、どうしてそんなに冷静なのよ!?
「きょ、今日の国光・・・・・やっぱり変だよ。」
「そうかもしれないな。」
「そうかも知れないなって・・・・・他人事のように・・・・。」
「だが、綾女はこういう事を望んでいたんだろう?」
「え?」
「態度で表してくれないとわからない。言葉にしてくれないと伝わらない。抱き締めるだけじゃ足りない。キスしてくれないと感じない。と言っていただろう?」
この間・・・・・と言ってもけっこう前だけど、なにかの理由で喧嘩した時にそんなことを言った覚えがある。
だけどあれば感情に任せてと言うか・・・・興奮していて本気で言ったわけじゃないのに・・・・・。
でも国光はそれをずっと覚えていて、ずっと考えていてくれたんだ。
いつも冷静で他人の意見に流されることなんてなくて、自分をしっかりと持ってる国光が、
私のために譲歩してくれる事が、申し訳なくも嬉しい。
そっと腕を引かれ、逆らう事無く立ち上がった。
手を引かれるままに国光の膝の上に座れば、ぎゅっと抱き締められた。
首元に顔を埋められて、息がかかってくすぐったい。
だけどそれ以上に、ドキドキする。
「誰かに見られちゃうよ・・・・」
「誰も見てなどいない。」
「でも・・・・恥ずかしい・・・・。」
「綾女の望む事なら・・・と思ったが、こんなに可愛い綾女が見れるなら、もっと早くからしておくべきだったな。」
「もう・・・・・・ばか。」
引かれあうように唇を合わせる。
今日二度目のキスは、さっき食べたケーキよりも甘く、
今までしてきたキスの中で、一番ドキドキした口付けだった――――
sweet sweet sweet
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綾女ちゃんハッピーバースデー!!
珍しく?攻める国光を書いた気がします。
プレゼントになってるかは不明ですが、プレゼントフォーユー!!