仁王誕生日企画 夢小説 『First love』 第1話 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

高校生活も残り1年となった高3の冬。

私は生まれて初めて恋をした。


彼との恋を知り、今までの恋は幻想だったのだと気づいた。

これが本当の恋なんだと・・・・胸を打つ鼓動が、瞳を濡らす涙が教えてくれた。


恋がこんなに切なくて、恋がこんなに苦しくて、だけどとても甘いのだと、初めて知った私の初恋――――




First love ~第1話~



「私・・・・恋しちゃったみたい。」

「は・・・?」




自室のベッドの上でうつ伏せに寝転びながら雑誌を見ていたマー君が、なにを言ってる?とでも言いた気な顔で私を見た。

あまり感情を表に出さないマー君に、そんな顔をさせれた事がちょっと嬉しくて勝ち誇った気持ちになる。


私はベッドの方へと這うように近づき、もう1度同じセリフを口にした。




「だから、恋しちゃったみたいなの。」

「誰がじゃ?」

「私が?」

「それはおもろい冗談じゃのう。」

「冗談じゃないってば!本気で好きになっちゃったの!」




ムキになって言い返すと、審議を問うような目でマー君の瞳が私を射抜いた。

相変わらず鋭い眼光に一瞬怯みそうになったけど、負けるもんかと見つめ返す。

しばらく顔を寄せ合ったままでいると、マー君がふっと鼻で笑うような吐息を漏らした。




「悠に惚れられたなんて相手に同情するが、まぁせいぜい頑張りんしゃい。」

「どう言う意味よ!?」

「振られた時は慰めてやるぜよ。」

「余計なお世話!!」




失恋なんて経験した事がないであろうマー君に、傷ついた乙女を慰める事などできるはずがない。

そう言ったらきっと、「振られたことくらいある」って言うんだろうけど・・・。


マー君に彼女がいたことは何度かあったけど、どれも長続きしなくてすぐに別れてしまっていた。

ほとんどが・・・・・っていうか、100パーセントの確立で別れを切りだされるのはマー君だ。

でもそれは、「振られたんじゃなくて振らせた」と私は思っている。


端から見ても彼女を大切にしているようには見えないし、付き合ってるんだよね?って聞きたくなるくらい彼女に素っ気無い。

二の次どころか、三の次でも四の次でもなくて、彼女に同情したくなるくらいだ。

不安や不満をぶつけても暖簾に釘押し。相手にされないどころか感心すら持たれないなんて、もう別れるしかないと思っても仕方ないと思う。


それならどうして付き合うのか?


告白されたからと言って誰とでも付き合うけではなくて、OKした数の方が少ない。

数多くの女の子の中から選んだのだから、マー君もその気があるんだと思いきやそうでもないようで・・・・。

ならどうして付き合うのか・・・?結局そこに戻ってきてしまう。




「マー君はさ、なにを基準に彼女を選ぶの?」

「顔。」

「最低。あ、でも・・・・・」

「なんじゃ?」

「私が言うのもなんだけど・・・・そこまで可愛い子いないよね。」

「・・・・・・・そうじゃのう。」

「なんで私の顔見て言うのよ?」




私の顔をじっと見ながら、しみじみといった風に肯定の言葉を漏らしたマー君に、顔をしかめて見せる。

フッと短い笑みを溢したマー君が、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。




「あと雰囲気かのう?」

「雰囲気?」
「そ。」

「どんな・・・・・?」

「それはナイショナリ。」




この話はこれでおしまいとばかりにマー君はベッドから起き上がり、「さて、コンビニにでも行こうかのう」と部屋から出て行ってしまった。

またはぐらかされちゃった・・・・と溜息を付きながら私も部屋を出る。

玄関で靴を履くマー君の背中に、「ちょっと待って!!」と慌てて駆け寄った。




マー君ママに持たされた筑前煮を小脇に抱え、マー君の隣を歩く。

すっかり色付いた垣根の紅葉が、月の光に照らされてキラリと光った。




「昼間はまだ暖かいけど、やっぱ夜は冷えるね。」

「そんな寒そうな格好しとるからじゃろ?」

「恋する乙女は寒さよりお洒落なの。」

「俺の家に来るだけじゃろ?」

「いつどこで会うかわかんないじゃん。」

「はいはい。」




あ、軽く流した・・・・と少し拗ねた顔で睨みつける。

マー君はそんな私を、小さな子でもあやす様によしよしと頭を撫でた後、自分が羽織っていたパーカーを私の肩に掛けてくれた。


まだ温もりの残るパーカーに包まれて、冷えた体が温かい。




「フード被っとけば顔も見えんし誰かわからんじゃろ?」

「髪が崩れる。」

「それくらい我慢しんしゃい。風邪でも引いたら俺がオバサンに怒られる。」

「そんなんで怒んないよ。」




反抗期の娘のように可愛くない事を口にしながらも、パーカーに袖を通し、言われた通りにフードを被った。


意地悪で憎たらしいけど、優しいんだよね・・・・・本当は。

そういう所を彼女にも見せればいいのに。

「コンビニに行く」って言うのも、本当は私を送ってくれる口実だって知ってるんだぞ?


寒いのを我慢するように背を丸めるマー君をフード脇から覗き見ながら、私はそんな風に思っていた。








「また仁王家に行ってたの?」

「うん。筑前煮貰った。」

「もう・・・。ご迷惑になるから止めなさいって。」

「いいじゃん。オバサンもいつでも来てねって言ってくれてるし。」

「社交辞令って知らないの?」

「親戚に社交辞令なんて言わないでしょ?」

「はあ・・・・あんたって子は。」




呆れた顔で溜息をつくお母さんにペロリと舌を出し、筑前煮のこんにゃくを摘み食いした。


マー君と私は親戚になる。
と言っても血の繋がりは無い。
お母さんの妹、つまり私の叔母さんと、マー君のお父さんの弟が結婚したことによって、仁王家と親類関係になったわけだ。


私が小さい頃は、叔母さんの家に行った時なんかにたまに会うだけで、あまり親交があったとは言いがたい。
それでも、兄弟や従兄がいない私にとっては、マー君達姉弟は姉兄のような存在だった。

今のように私が仁王家によく遊びに行くようになったのは、マー君がうちの近所に引っ越してきて、しかも同じ立海に行く事になってからだ。

たまにしか会えなかった親戚が近くに引っ越してきてくれて、すごく嬉しかったのを覚えている。


用もないのに遊びに行っては、今日みたいにマー君達姉弟とおしゃべりして。

何か特別な事をするわけじゃないけど、まるで本当の家族といるみたいで私にはとてて心地いい時間。

マー君が同じ様に思ってるのかはわからないけど、なんだかんだで私の相手をしてくれるのは、やっぱり親戚贔屓なんじゃないかと思う。




「じゃぁさ、今度家に夕飯招待したらいいじゃん。いつもすみませんって。」

「そうねぇ。」

「私マー君の好物作るよ。」

「嬉しそうな顔しちゃって。まるで彼氏の話をしてるみたいね。」

「彼氏?」

「まさかマー君に恋してるとかないわよね?」

「えー。ないない。マー君顔はいいけど彼女に冷たいもん。」

「そうなの?」

「うん。彼氏にするなら頭がよくて優しくて、頼りがいがあってカッコよくて・・・・ついでに面白いということない。」

「現実を見なさい。」




現実見てるもんね・・・・・。

頭の中に好きな人を浮かべて、緩む口元をタッパーで隠した。



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全8話の長編となっております。


2年前に那木ひとはさんのイラストとコラボさせていただいたのですが、今年もコラボのお願いに参ったところ、快く了承してくださいました。


ちょっと小説が長くなっちゃって、ひとはさんのイラストが出てくるまでまだまだなんですが、

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。