一人っ子の私は可愛い妹が欲しくて、お隣の精ちゃんを家に連れ込んでは、私の小さくなった服を着せて着せ替え人形のようにして遊んだものだ。
見た目も中身もすごく可愛くて、本当の女の子と何度錯覚しただろう。
大きくなるに連れ身長は私より大きくなるし、声だってかなりハスキーになって、
あぁ、男の子なんだな・・・って思う事もあるけど、私にとっての精ちゃんはやっぱり妹みたいな存在で、
今日も大量に作ったお菓子を食べさせるために家に呼び出した。
「俺、残飯処理係りじゃないんだけど?」
「残飯じゃないでしょ?まだ誰も手をつけてないし。」
「だけど俺のために作ったわけでもないだろ?」
「精ちゃんが作って欲しいって言うならいつでも作るよ?」
『俺』なんて言いだしたのはいつの頃からだったかな?
『精ちゃん』から『精一』になって、『僕』から『俺』になって、その度になんとなく寂しい気持ちになったっけ。
この年で自分の事を『精ちゃん』とか言ってたらそれはそれでヤバイんだけど、精ちゃんが『俺』っ言うのはいまだに慣れない。
切り分ける事もせずホールのまま精ちゃんの前にケーキを置いて、フォークを差し出す。
なんだかんだ文句を言いながらも素直にフォークを受け取る精ちゃんが可愛くて、フフッと笑みが漏れた。
精ちゃんの向いに座り、私もフォークを構える。
生クリームの上にちょこんと座るイチゴにフォークを突き刺し、丸々口の中へ含んだ。
「・・・・・・すっぱ。」
「確かにイチゴはすっぱいけど、ケーキはかなり甘めだね。」
「え?」
そんなはずはないでしょ?ちゃんと味見だってしたし・・・・・。
今度は生クリームをすくってひと舐めする。
ふわりと広がった甘味にさっきのイチゴのすっぱさが消えた。
「そう?普通だと思うけど・・・・。」
「疲れてるんじゃないのかい?」
「あぁ・・・・そうかな?」
疲れた時は甘味が欲しくなるって言うしね。
そう言われればそうなのかもしれない。
「それとも・・・・・失恋でもした?」
「え・・・・?」
精ちゃんの言葉にフォークを持つ手がピクリと震えた。
もともと感情が顔や態度に出やすい私は、精ちゃんに隠し事が出来たためしがない。
それでも失恋したなんて事は知られたくなくて、「何言ってんのよ。」と精一杯笑って見せた。
「変な顔。」
「ちょ、変って何よ!?」
「だって泣きそうなのに無理して笑って・・・・ブサイクが余計にブサイクだよ?」
「ブサイクで悪かったわね。」
失恋して落ち込んでる女の子に『ブサイク』ってなんなのよ?
綺麗な顔の精ちゃんに言われるとダメージも大きいんだから!!
だけどいつもと変わらぬ精ちゃんの憎まれ口に、ふっと肩から力が抜けて、作り笑いじゃない笑顔が零れた。
その私の笑顔に満足したのか、精ちゃんの表情がふと緩む。
「今日は失恋したトモのために、俺が目一杯甘やかしてやるよ。」
「誰も失恋したなんて言ってないでしょ!?」
「いいから。ほら、あーんして。」
私の言葉なんて聞こえてないかのように、フォークの上にたっぷり生クリームを乗せて私の口元へ持ってくる。
年下のクセに生意気な・・・と思いながらも、『甘やかす』が『あーんする』って所が可愛く思えて、私は素直に口を開けた。
「ふふ。自分で食べるより精ちゃんに食べさしてもらった方が美味しい。」
「当たり前だろう?」
「ちょっとは謙遜を覚えた方がいいよ?」
「トモには必要ないだろ?」
ホント最近めっきり生意気になっちゃって・・・。
もしかして反抗期?
「昔はもっと可愛かったのにな・・・・。」
「トモは今も昔も可愛いよ。」
「さっきブサイクって言ったくせに。」
「可愛いよ。トモは誰より可愛い。」
「・・・・・精ちゃん?」
「だけどそれは俺だけが知っていればいい事だから。」
甘い綿菓子のように甘くてふわふわの精ちゃんの笑顔。
だけどその瞳は何処か鋭くて、私の視線は絡み取られたように逸らせなくなる。
なんだろう?
失恋した時とは違う痛みが胸を締め付けて苦しい・・・・・。
「はい。もう一口。あーん。」
「あ、あーん。」
おかしいな・・・・?
さっきより口の中が甘い。
それになんだか・・・・顔が熱い。
なんでかな?
なんでなのかな・・・・?
その答えはもう一口食べたらわかるだろうか・・・・?
甘さ加減はキミ次第
(ケーキを食べ終わった時、失恋の痛みはすっかり消え、新たな恋の予感に胸が弾んだ)
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もっちゃんリクユッキーSS。
幼馴染で年上ヒロイン。
ユッキーで年上ヒロインの夢を最近よく読みます。
ないわ・・・・って思ってたけど意外といけるかも。