笑顔を届けたい企画!! 日吉SS | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

バレンタインに私から告白して付き合い出した私と日吉君。

OKをもらえたことが嬉しくてすっかり舞い上がっていた私だけど、1ヶ月経った時、ふと心に不安が浮かんだ。



ホワイトデーに・・・・何もお返しがなかった。



日吉君のことだから、ホワイトデー自体を知らない可能性もある。

それならまだいい。

だけどもし知っていて何もなかったのだとしたら・・・?


日吉君は礼儀などにはうるさいし、お返しはきちんとするタイプだと思う。

なら・・・・どうしてホワイトデーにお返しがなかったのか?


もしかして私があまりに必死だったから仕方なく付き合っただけだったとか?

お返しなんてする必要性を感じないほどの人間だとか・・・?


日吉君がそんな理由でどうでもいい人間と付き合うはずがないってわかってるけど、不安は大きくなるばかり。

聞きたいけど怖くて聞けない。

そんな事をしてる間にホワイトデーはすっかり過ぎ去り、もう4月も半ば。


日吉君は相変わらず無愛想だけど、私が隣にいる事が自然のように接してくれてるし、ちゃんと大事にされてると感じる。

それなのにいまだにホワイトデーの事を気にしている自分が嫌になる。


だから今日ははっきりさせようと思う。




「ねえ・・・日吉君。」

「なんだ?」

「・・・・なんでもない。」




決心を固めてきたのに、日吉君を前に怖気ずく。


何やってんのよ私は!

はっきりさせるんでしょ!?




「あ、あの日吉君。」

「だからなんなんだ?」

「いや・・・ごめん。」




苛つきを含んだ声に、また私の心は臆病になる。

こういう態度がさらに日吉君を苛々させてるとわかってるのに、真っ直ぐと向けられる視線から逃れるように顔を伏せた。


案の定大きなため息が聞こえ、覚悟していたとはいえ胸がズキンと痛んだ。




「まゆ。」

「は、はい!!」

「言いたい事があるならちゃんと言え。」

「え?」

「最初にそう言っただろ?我慢せずきちんと気持ちを伝え合うって。」




てっきり怒っているものだと思っていたのに、私の名前を読んだ彼の声はとても穏やかで、

それどころかその次に続く言葉は私を安心で包んでくれるように優しくて、胸の痛みがスーッと消える。


自分で言ってて恥ずかしくなったのか、日吉君の顔が少し赤い。

それでもちゃんと言葉にしてくれた事が嬉しい。



そうだ。言わなきゃなにも始まらない。

私はなにを迷っていたんだろう。

言葉で伝えなきゃ・・・・わかりあう事なんてできない。




「ホワイトデー・・・・なにもなかったな・・・・って・・・・・。」

「は?」

「いや、ベ、べつにね?催促してるわけじゃなくて・・・・日吉君ってお返しとかちゃんとしそうだから・・・・その・・・もしかして知らないのかなぁ?なんて思っちゃったりして・・・・・・・・・はははは。」




意気込んで口を開いたはいいけど、日吉君の「は?」に頭が真っ白になってしまった。

慌てて言葉を並べても言い訳のようにしか聞こえなくて、私の乾いた笑いが空しく響く。


うわ・・・呆れられちゃった?

そんなことをずっと悩んでたのか?って思われた?


なんだか泣きそうになったけど、ここで泣いたらますます日吉君の呆れられてしまうと思って、

「ご、ごめんね?その・・・ちょっと思っただけだから・・・・忘れて。」と頬を引き攣らせながらも笑顔を見せた。


だけど日吉君はそんな私からスッと視線を逸らし、何か考える素振りを見せる。

幻滅して「別れよう」なんて言われるんじゃないかと全身から血の気が引いた。


無言の時間がしばらく流れた後、日吉君はおもむろにバッグの中へ腕を入れ、そこから取り出した物を私の方へと差し出してきた。




「え・・・?」

「ホワイトデーの・・・・お返しだ。」

「用意・・・・してくれてたの?」




パステルカラーの包装紙に包まれた掌サイズの箱。

ずっとバッグに入れていたのかラッピングは少し縒れ、リボンの先も折れ曲がっている。




「当日渡すつもりで用意してたんだが・・・・」

「そうなの?じゃぁどうして・・・・?」




私の為に用意してくれていたプレゼント。


だけどあの日、日吉君はいつもと変わらない態度で、いつもと同じように私を家まで送ってくれて、そのまま「また明日。」と帰って行ってしまった。

その背中を私は寂しく思いながら見送っていたのに・・・・・。




「忍足さんが・・・・。」

「え?」

「忍足さんが、今どきホワイトデーに飴やマシュマロなんて流行らないとか言うから・・・・」




なんと・・・・?

忍足先輩そんな事言ったんですか!?




「そんな・・・・・私は日吉君からならなんだって・・・・・」

「そんなものより――――の方がお前は喜ぶって・・・・。」

「え?なに?」

「・・・・・・・キスでもしてやった方が喜ぶって言われたんだよ!」




半ばやけくそ気味に吐き出されたその言葉に、一瞬にして顔に熱が集まる。


お、お、お、忍足先輩~!!!!

なんて事を言うんですか!!!


きっと真面目な日吉君をからかっての事なんだろう。


でも、忍足先輩にそう言われて日吉君が悩んでいたのかと思うと可愛い。

私のために色々考えてくれてたなんて・・・・・嬉しすぎる。




「えっと・・・・あ、ありがとう・・・・」

「何に対しての礼だ?」

「え?それは・・・・お返し用意してくれて・・・・」

「フン。まだやるとは言ってないだろう?」

「え?」




目の前に突き出されていたプレゼントがサッと引かれてしまう。

「あ・・・」と言う私の間抜けな声が空いた空間に落ちた。


え?くれるんじゃなかったの・・・?




「どっちが欲しいんだ?」

「へ?」

「だから・・・・どっちが欲しいんだよ?」




『どっち』の意味がわからなくて、きょとんと日吉君の顔を見つめていると、

日吉君の顔はこれ以上ないくらに真っ赤に染まって、フンッと顔を背けてしまった。


え・・・・?

もしかして『どっち』って・・・・・その箱かキスって事!?




「お、俺は・・・・どちらでも構わない。」

「わ、私は・・・・・・・」




そんなの・・・・・・・・・・・・私の答えは決まってる。

だって日吉君が用意してくれたお返しだから。



震える足で一歩前に出て、日吉君のブレザーの袖をぎゅっと掴んだ。




「どっちも・・・欲しい・・・・・・デス。」




  恋は欲張りに

(『遅くなって悪かった』の言葉と共に、掌と唇に一ヶ月遅れのお返しが落ちてきた)


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まゆぴょんさんリク若SSでした。


初々しいですな・・・・・ww