赤也誕生日夢 ④ | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

続き物となっております。先に をお読みください。





誕生日の試練 ④





あっという間にお昼休みになってしまった。


いまだメールは送れてない。

送るどころか文章もも出来てないし・・・。


赤也君拗ねてるかも。

お弁当持って教室に行ってみようかな?


そう思って鞄からお弁当を取り出そうとしたのだけど、

鞄の中にお弁当がない!!


あれ?

確かお弁当入れたよね?

うん。キングに急かされながらも確かに入れた!!

じゃぁなんでないの!?

私のお弁当どこ行ったー!?


鞄を広げて探していると、見覚えのない1枚の紙が目に入った。


なにこれ?



『弁当は預かったナリ。返して欲しければ屋上まで来きんしゃい。』



手紙でも訛るんだ・・・・。


ってそんなとこにツッコミを入れてる場合ではない!!


いつの間に取られたんだろう?

あっ!!さっき柳生君と話してる時!?

それくらいしか席を離れた記憶はないし・・・・。


丸井君のお菓子を食べたからそんなにおなかはすいてないけど

だからといってこのまま無視するってわけにもなぁ・・・・。

後でなんか嫌味攻撃くらいそうだし・・・。


仕方ないと腰を上げ、私は屋上へと向かった。




屋上ではすでに何人かの子達がお弁当を広げて食べていた。


そこに仁王君の姿はない。

まぁ彼がいる場所の見当は付いている。


丸井君に教えてもらった秘密の場所。



私はお弁当を食べてる子達に見つからないように陰に隠れながら、

屋上の扉の上にある屋根へと上った。



思ったとおり、そこには腕枕をしながら寝転ぶ仁王君の姿が・・・。

そしてその横には私のお弁とがぽつんと置かれていた。



「お弁当返して。」

「早かったのう。」



よっこらせと上りきった私は、仁王君の傍まで寄り、少し睨むように見下ろした。



「そんな風に立っとったらパンツ見えるぜよ?」

「っ!?」



慌ててスカートを押さえ地べたに座り込むと、

待ってましたとばかりに膝の上に頭を乗せてきた。



「ちょっと!」

「もうちょっと肉厚があるほうがええのう。」



セクハラだ!!

勝手に頭乗せてきてなにを勝手なことを!!


叩き落としてやろうかと思ったけど、下はコンクリ。

さすがにそれは痛いだろうと、仕方なくそのままの体勢で仁王君を見つめていた。



「ひと雨きそうじゃのう。」

「え?」



ポツリと呟いた言葉に、私は空を見上げた。


朝見た時は青が一面に広がっていたのに、今はすっかり雲に覆われて太陽は見えなくなっていた。



「本当だ・・・・。あんなに晴れてたのにね。」

「誰かが泣いとるんかもしれんのう。」

「泣く?誰が?」

「さぁの・・・・。」



クスリと笑みを浮かべた仁王君はそのまま瞼を閉じてしまった。



今のはどういう意味なのだろう?


仁王君のこういう言い回しはただ気まぐれに発せられた意味のない言葉じゃないって事は知っている。

これはきっと何か私に伝えようとしているんだ。


ストレートに答えをくれないのは、私自身自分で考え書きゃいけないという事。



泣く・・・?


どうして?


誰が・・・?


ゴロゴロと鳴り出した空をもう1度見上げながら、

私は仁王君の言葉の意味を考えていた・・・・。












結局昼休みが終わり、予鈴が鳴るまで私は仁王君に膝枕をしていた。


お弁当を食べる事も無く、ただ空を見上げていると、

少しづつ答えが見えてきた気がする。



重みのあるお弁当箱を持って教室に戻ってくると、誰かの「雨降ってきた」という声が聞こえた。


もう降ってきてしまったんだ・・・・。


暗い空から降りしきる雨はなんとなく寂しさを感じさせる。


仁王君があんな事を言ったからだろうか・・・?



5時間目の授業はほとんど頭に入らなかった。

雨の音が耳について、先生の声も教室のざわめきも耳に入らない。


授業が終わったことにも気づかなかった私は、肩を叩かれて思いっきり肩を跳ねさせた。



「考え事かい?」

「精市君・・・・。」



ここで精市君が現れて、私の中の不確かな考えが確実な形となっていく。


日付が変わる直前にかかってきた電話。

家にまで迎えに来たり、休み時間ごとにたずねてくるメンバー。


なぜ今まで疑問を抱かなかったんだろう?

自分のボケ具合に呆れてしまう。


空いていた隣の席に腰掛けながらふわりとした笑みを浮かべた精市君に

私はまっすぐと向き合った。



「毎度毎度ご苦労様。」

「ふふ。何の事かな?」



どうせここで私が何を言ったって、私の望む答えが返ってくるとは思っていない。


別に怒ってるわけでもないけど、こうも毎度毎度邪魔されると嫌味のひとつも言いたくなる。



「誕生日くらい優しく見守ってあげるのが先輩じゃないの?」

「誕生日だからこそ、大切な事を教えてあげてるんだよ。」



教えてあげてる?


ただ毎時間こうやって私が赤也君にメールを送るのを邪魔している事に

なんの教えが込められているというのか・・・・?


そう言えば・・・・。


赤也君から今日1度も私への連絡が来ないのは

私からの連絡がないことに拗ねているんだと思っていたけど、

もしかして赤也君のところにも邪魔しに行っていたのだろうか・・・?



「赤也君のところにも邪魔しに行ってたの?」

「いや。赤也のところには誰も行っていないよ。」



じゃぁ・・・本当にただ拗ねてるだけ?

でも・・・・何かが引っかかる。


その『何か』がよくわからなくて頭で考えを巡らせていると、

精市君が「あ、そうだ。」と手を叩いた。



「え?なに?」

「最近赤也、ずいぶんとモテてる様だね。」

「へ?あぁ・・・。そうみたいだね。」



精市君のいうように、赤也君は3年生が引退して部長になった途端よくモテるようになった。


まぁ以前から人気はあったようだけど、どこか可愛いイメージが強くて

同年代の子や後輩からの人気はあまりなかったようだ。


だけど部長になって部をまとめ引っ張っている姿は男らしくて

あっという間に『可愛い男の子』から『カッコいい男子』へと変わってしまった。


赤也君自身はそれほど変わってないんだけど、

女子の感覚なんてそんなもんだ。


普段は特に変わらないけど、部活してるとかっこよく見える。

これがまたギャップ効果というヤツなんだろう。



「ずいぶんと余裕そうだね。」

「そういうわけじゃないけど・・・・」

「不安にはならないのかい?」



不安か・・・。


赤也君がモテだして、目の前で告白を見た事もあるし、

一緒にいるのに呼び出されてどこかに行ってしまう事もしばしば・・・。


正直いい気はしない。


自分の彼氏がモテる事を自慢に思っている子もいるだろうけど、

私は別に赤也君がモテるから好きになったわけでもないし・・・・。


一緒にいる時に呼び出されて付いていくとかありえない。

普通断るでしょ?


そんな気持ちがなかったとも言い切れない。


でもそこまで私が束縛するのもおかしな話のような気もするし、

何より赤也君がそんな態度をとっているのは私を妬かせたいからだって気づいたから・・・。



「赤也君にあんな態度を取らせてるのは私の責任でもあるんだよ。」



やきもちを素直に伝えて「私だけ見て。」って言って欲しいんだってわかってる。


でもそんな縋る様な台詞は私には口にできないし、

その誘いに乗ってしまうのもなんだか癪。


それに1度そんな態度を見せると、多分もっともっととエスカレートしていく気がするから・・・。



「ちゃんと悠奈はわかってるんだな。」
「え?」

「でも赤也はそんな悠奈の気持ちにも気づいていない。」



ぴしゃりと言い放った言葉はとても冷たくて、精市君の静かな怒りが感じ取れた。



「だから俺がお仕置きをしておいたよ。」

「え!?何したの!?」

「ふふ。今頃沈みまくって泣いてるかもしれないな・・・・」



さっき誰かが泣いてると仁王君が言っていた。


それは私からの連絡がない事に赤也君が拗ねて悲しんでるって事だと思ってた。


でも・・・そうじゃない?



わしゃわしゃと私の髪を掻き乱した精市君は、スッと席を立ち、

「放課後赤也の教室か部室に行ってやるといいよ。」と言い残し教室を出て行った。




精市君との今の会話を思いだす。



『誕生日だからこそ、大切な事を教えてあげてるんだよ。』



精市君が赤也君に何を言ったのかはわからないけど、

話の流れ的に私にやきもちを妬かせようとしていた赤也君へ何か忠告したんだろう。


教えてあげたと言うより、大半が嫌がらせのような気がしないでもないけど、

誕生日を向かえひとつ大人に近づいた赤也君へ、先輩として何かを伝えようとしてくれたのかもしれない。


やきもちをやかせる事に必死で、周りが見えなくなっていた赤也君と、

そんな赤也君を放置していた私へ、大切な何かを・・・・・



「お仕置き」と言いながらも、「行ってやるといい」と言ってくれた。


これは精市君からの、厳しくも優しい誕生日プレゼント。



私は乱れた髪を直しながら、小さく「ありがとう」と呟いた。


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次はちょっと場面が戻ります。