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織姫をさがせ!! ー Vol.7 ー
複雑な気持ちを抱いたまま、精市君に手を引かれて大きな笹飾りの下までやってきた。
いくつもの笹と、そこにぶら下がる短冊。
その横で短冊に願いを書く人達。
七夕祭りらしいその光景の中に、一箇所だけ浮いている場所がある。
笹飾りと変わらぬ背丈。
仁王立ちで周りを威嚇しているようにしか見えない。
だけどその頭には、いつものトレードマークの代わりに・・・・プリ○ュアのお面が被されていた。
・・・・・・・・キング!?
「お待たせ真田。」
「いや。時間ちょうどだ。問題ない。」
問題大有りだよ!!
周りの目が痛いんですけど!?
精市君にどういう事なの!?と、目で訴えてみるも、軽くかわされてしまった。
絶対楽しんでる!!
かわいそうなキング・・・・・。
なんて言って丸め込まれたのかはわからないけど、なんでプリ○ュア!?
他にも色々あったでしょうよ!?
もうかける言葉も見つからなくて、そっと視線を逸らした。
「じゃぁ後は任せたよ。」
「ああ。」
「悠奈。わかってると思うけど・・・・・」
「わかってる。探しに行ったりしない。」
納得なんてもちろんできてない。
本当なら今すぐにでも探しに行きたい。
でもそれはルール違反とみなし即ゲームーバーだと言われてしまった。
赤也君は必死で私を探してくれている。
私に会う為に・・・・・。
それを私のせいで全て台無しにしてしまうわけにはいかない。
信じてる。
きっと見つけてくれると・・・・・・。
「ふふ。いい子だね。じゃぁ・・・御褒美にこれをあげるよ。」
そう言って精市君が差し出してきたもの・・・・。
それは携帯電話だった。
見覚えのある携帯電話。
これって・・・・・・赤也君の!?
「もし会えたら返しておいて。」
「これのどこが御褒美なのよ!!」
もともと電話しても通じないとは思ってたけど、まさか精市君が持ってたなんて・・・。
かけなくてよかったよ・・・・・。
赤也君の携帯は、なぜかすごく小さくて・・・・すごく重く感じて、
落とさないよう、失くさないよう・・・・・強く・・・・きつく握り締めた。
KY代表とか言われる事もあるキングも、私と精市君との微妙な空気を察してか、
精市君が立ち去っていくまで、何も話しかけてはこなかった。
キングに気を使わせるのも悪いと思ったけど、沈んだ気持ちを浮上させる事も出来なくて
精市君が見えなくなった後、大きな溜息をついていると、
キングが急に、「ちょっと待っていろ!」と、どこかに走り去ってしまった。
え・・・・・?
あの格好でどこに行くのー!?
通報とかされなきゃいいんだけど・・・・・。
待っていろって言ってたし、そのうち戻って来るのだろうと空を見上げると
いくつもの短冊が笹と共に風に揺れていて、その遙か上に大きな花火が夜空を染めていた。
花火か・・・・・。
赤也君が喜びそう。
一緒に・・・・見たかったな・・・・・。
赤也君の事を思うと涙が滲み出てきそうで・・・・ギュッと目を瞑った。
「原!?」
突如怒鳴り声が聞こえて目を開くと、いつの間に戻ってきたのか
キングが私を覗き込むように立っていた。
びっくりしたな・・・・・もう。
涙も引っ込んじゃったよ。
だけどびっくりしたのはそれだけじゃない。
キングの両手にはなぜかりんご飴が・・・・。
しかも1本じゃなく何本も!!
またどうしたわけ・・・・?
なぜりんご飴!?
「キ、キング・・・・?」
「どうした!?どこか痛いのか?」
イタイのはキングでしょーがー!!!
本人が気づいてないところがもっとイタイ!!
心配してくれてるところ悪いけど、ここはツッコンだ方がいいのかな・・・?
「私どこも痛くないけど・・・・・・。」
「そうか。ならこれを食え。」
「あ、ありがとう・・・・・・。でも・・・・なんでりんご飴?」
よく言った私!!
どんな返事が帰ってくるのかドキドキしながら待っていると、
なぜか照れたように顔を赤らめだした。
どうしたキングー!!
今のどこに照れる要素があったわけー!?
「俺は女が喜ぶものなんてわからんからな。」
「女が喜ぶもの?」
「蓮ニに電話で聞くと、『りんご飴がいい』と教えてくれた。」
それは教えてくれたんじゃなくて、おもちゃにされたの間違いでは・・・?
でもきっとキングは、沈んでる私を励まそうと必死で考えて・・・・
それでもわからなくて柳君に電話してくれたんだろう。
そう思うと嬉しくて、もう1度「ありがとう」と告げて、りんご飴をひとかじりた。
「だけどさ、何でそんないっぱい買ったの?」
「たくさん種類があってどれがいいかわからんかったからな・・・」
よく見てみれば、キングの手の中には、リング飴大・中・小。
他には苺や葡萄、みかんやキュウイまである。
しかも色は赤だけじゃなくて、青やらピンクやらとカラフルだ。
「こんな飴初めて見た。キュウイって・・・。どんな味だろう?」
「さあな・・・。」
「キング食べてよ。」
「俺はいらん!」
「じゃぁそんなにどうすんの?私そんなに食べれないよ?」
「持って帰ればよかろう?」
えー!!
そんなにいらないよ・・・。
丸井君にでもあげれば?と咽まで出かかったけど、それはあまりに失礼だと飲み込んだ。
結局キングにも無理やりりんご飴を食べさせて、
笹飾りの下で飴をパリポリいわせながら花火を見ていた。
別に立ったままこんな所で花火を見なくても・・・・とも思ったけど、
なんとなく移動する気にもなれなかったし、キングも何も言わなかった。
花火は30分間しかないらしく、20分を過ぎた辺りでクライマックスに向けて段々と激しくなり
爆音が辺りを振るわせる・・・・。
その中で、「少しは元気になったのか?」と、キングの声が聞こえて
視線を隣に移すと、心配そう顔で私を見るキングと目が合った。
こういう話題を自分から振ってくるタイプだとは思わなかったけど、
それほどまでに心配をかけていたのかもしれない。
キングに話しても、理解してもらえないかもしれないけど、
今は誰かに話を聞いてもらった方がいい気がして、ぽつぽつと胸の内を話し出した。
「キングは今赤也君が何してるか知ってる?」
「お前を探しているのだろう?」
「知ってたの?」
「無論だ。」
キングのことだから意味もわからず強制参加させられたのかとちゃんと知ってたんだ・・・・。
でもその意味を正しく理解してるかは不明だけど・・・・。
「精市君にね、赤也君を信じてるなら待ってろって言われたんだ。」
「信じていないのか?」
「ううん。そうじゃないよ。赤也君の事は信じてる。きっと見つけてくれるって・・・・」
「なら何を悩んでいる?」
「自分の情けなさと、じれったさ・・・・かな?待つだけは辛いよ・・・。」
精市君は、赤也君の想いを確かめるためって言ってた。
だけど・・・・本当に試されたのは私の方だ。
何も知らずにみんなと過ごした時間も、今こうやって待つだけの時間も。
私がどれほど赤也君を想い、信じているのか・・・・・。
それが試されている。
赤也君はきっと私を信じて探し続けてくれていることだろう。
だけど私には、ただ信じて待つことしか出来ない。
「精市君もひどいよね・・・・。何もこんな風に試さなくったって・・・・・。」
沈む気持ちの重みからか、つい泣き言のような事が口から零れた。
情けなさ過ぎて自分が嫌になる。
キングも呆れてる事だろう。
いっその事怒鳴ってもらえば、喝でも入るんじゃないかと思ったけど、
キングからは意外な言葉が返ってきた。
「お前は精市に試されたというが、それは全てマイナスな事だったのか?」
「え?」
「人は試練を受けてその先のものを手にする。この試練でお前が手にしたものはなんだ?」
「手にしたもの・・・・?」
私は何を手にしただろう・・・・?
悩み、考え、苦しんだ先に、私が手にしたもの。
それは・・・・・
赤也君への想い。
改めて感じた赤也君の大切さ。
今・・・・・誰よりも赤也君に会いたい。
確かに、この試練があったからこそ気づけた想いかもしれない。
そう思えば、私達にとって必要で、意味のあった事なのだろうか・・・・・?
でもそれを素直に精市君のおかげだと思うのはなんかいやだ。
「精市はお前達をただ弄んでいる訳でも、意地の悪い事をしているわけでもない。」
「そうかな・・・・・?半分以上はそうだと思うけど・・・・。」
「赤也に与えられたタイムリミットは21時だ。俺はお前と20時半まで一緒にいろと言われている。」
「20時半・・・・?」
タイムリミットは21時。
じゃぁ・・・それまでの30分は?
「俺達は自分の持ち時間の間に赤也に見つかることは許さないと言われた。だが後の事は知らん。」
「それって・・・・・」
タイムリミットまでの30分間。
私はフリーになる。
探しに出るのはルール違反だと精市君は言っていた。
だけどこの空白の30分を作ったのも・・・・精市君だ。
これも試されているのだろうか?
それでもここで待つことを選ぶのか・・・・?
それとも探しに出ることを選ぶのか・・・・?
先の答えはわからない。
だけど、私の選ぶ道は1つしかない。
最後の花火が夜空を赤く染めた瞬間、私はキングに背を向けて走り出した。
一瞬の間に散る大輪の花に、歓声と拍手が湧き上がった、午後20時30分――――
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キング大人になりました(笑)