仁王連載 ③ | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

このお話は連載モノです。プロローグ出会い  からお読みください。



恋して 愛して ― 芽生え ―




「運命」なんて言葉は信じとらんし好きでもない。

だけど・・・。

お前とあの日出逢った事も・・・・

こうして恋に落ちたことも・・・・

すべてが運命というなら、

そんな運命に翻弄されるのも悪くはないかもしれん・・・・





あの日、午後から幸村の見舞いに行く為に部活を早目に切り上げ、揃って病院までやって来た。


正直俺は入院してからの幸村を見るのは辛かった。

会う度に痩せていく体に、細い腕から覗く注射針の痕。

そして何より、真田から部活の報告などを聞いている時のアイツの顔は

今にも泣いてしまいそうに見えた・・・。


気が乗らんままに一応はやって来たが、それでもやはり足は重く、

皆が病室に入っていくのを見ながら、前の柳生に「ちょと便所行って来る」と声をかけその場を離れた。


逃げた所で、会わずに帰る事など無理な事はわかっとる。

それでも、少しでもアイツを見ずにすむように・・・・。



時間稼ぎのように、1階の売店で意味もなく雑誌の立ち読みをしとったら

聞きなれんイントネーションが耳に届いた。

振り向けばツインテールの俺と同い年くらいの女がなにやら店員と話しとる。

あの話し方は関西方面のヤツか?

俺も人の事を言えたもんじゃないが、珍しい話し方は耳につく。


後姿で顔は見えんが、テンポのいい話し方で、よく笑う女じゃ。

のんきでええのぅ・・・・。

そう思いながら再び雑誌に目を落とした。


ポケットの中の携帯が振るえ取り出して見てみれば

「屋上に移動しましたので、屋上でお待ちしてます。」

と、柳生からのメールだった。


屋上か・・・。って事は今日の幸村は調子がいいのだろう。

それならそろそろ行くか・・・・。


携帯をポケットに戻し、売店を出ようとした時にはさっきの女の姿はもうなかった。





屋上へ続く階段を上りながら、遅くなった理由をどうやって誤魔化そうかと考えとったら

俺より先に屋上へと出て行く人影が見えた。

アイツは・・・・・?


少し足を速め、扉を開き外に出ればさっき売店で見かけたあの女が立っとった。

やはりあの人影はこいつやったか・・・・。


しかしその場を動く事無く、どこかをじっと見とる。

何を見とるんじゃ・・・・?


その視線を追いかけてみれば―――


なんじゃ・・・。この女も結局は他の女と変わらんって事か。

どんな話し方であろうが、所詮女・・・・。

俺は何を期待しとったんかのう。


急激に冷めていく心・・・。

フィルターがかかった様に霞んでいく世界。



「なんじゃお前は?」



別にそのまま通り過ぎてもよかったが、腹ん中に渦巻く泥付いた感情に吐き気がして、

その女に全てをぶつける様に、冷たい声で声をかけた。



「うぉ!?び、びびった・・・・。」



突然聞こえた声に体を跳ねさせ、勢いよく振り向いたと思ったら

そのまま一点を見つめ固まってしまった女。


どこ見とる・・・・・?

まぶしいのか目を細め、見つめる先は・・・・・髪?



「キレイ・・・・。」



思わず零してしまったかのような言葉・・・。

本人さえ、口にした事に気付いとらんように見える。


だがその言葉を耳にした瞬間、喉の奥が熱くなり、指先がピクンと動いた。



なんじゃ今のは・・・・?


そんな言葉は聞き飽きるほど聞いてきた。

「綺麗」だの「カッコイイ」だの、好き勝手なイメージを抱き、俺に擦り寄ってくる女達。

そのうち何を言われても、なんの感情も湧くかんようになってしまった。


なら今のはなんだ・・・・?

今の言葉が・・・耳の奥にこだまする・・・・・。


自分でもわからん感情に苛立ちを隠せず、とりあえずこの場を立ち去ろうと、

「邪魔じゃ。」と、冷ややかな視線を送りながら女の横を通り過ぎた。



俺の足音に気付いた真田が予想通りのセリフで怒鳴り声を上げ、

「すまんのう。道に迷ってしもうた・・・。」と、適当な言葉を返せば、柳生の呆れた視線が俺に向く。

だけど俺はそんな柳生の視線よりも、背中に感じるもう一つの視線が気になって仕方ない。


なぜこんなに気になる?

視線を受ける事くらいいつもの事。

無視すればええだけの話。


そう思うのに・・・・・なぜか俺はその視線に振り向いてしまった。



「変な女がずっとこっち見とる。」

「本当だな・・・・。」

「誰かのファンじゃねーの?」

「こんなとこまで!?マジうぜぇ~!!」

「切原君!失礼ですよ。」

「うちの生徒ではないようだな・・・・。」



幸村の病院への見舞いは俺らの他に、同クラスの代表のみと決められている。

だかこうやって俺らを追って来たり、コッソリと見舞いに来るヤツも少なくない。

みんなもあの女がその類だと思ったのだろう。


俺もそう思っとった。
だけど・・・・・・



「雪!!」



ベンチに座っていた幸村が立ち上がり、恐らくその女の名前であろう名を呼びながら駆け寄っていった。


驚いたなんてもんじゃない。

幸村と知り合いだった事にも、あの幸村が駆け出した事にも驚いたが、

何より初めて見たといってもいいほどの笑みを浮かべた幸村に、俺達全員が目を丸くした。

病気を発病して以来笑う事も少なくなった幸村。

その幸村に、こんな笑みを浮かべさせるなんて・・・・・・あの女何者じゃ?


なにやら言葉を交わしている二人に真田が歩み寄っていき、その後に俺達も続いた。



「幸村の知り合いなのか?」



真田が声をかけた事に幸村が邪魔するなとでも言うように睨んできたが

隣の女は真田を見て「コレが同い年!?」と命知らずな発言をしよった。

口に出とる事気付いてなさそうじゃがな・・・・・。


俺達の知らない女と、ニコニコ嬉しそうな幸村に、さすがの参謀も怪訝な顔をしている。

きっとデーターにない女なんじゃろう。


そんな俺達の心境を知ってか知らずか、幸村はその女の腰を引き寄せ、

「俺の彼女の雪。」と言いよった。


彼女・・・?

この女が・・・?


そう思った瞬間、胸の奥で何かが擦れる音がした。


まただ・・・・。

自分でも感じた事のない心の動きに戸惑いよりもイラつきが湧き上がる。


だが、驚きの声をあげたのは俺達だけじゃなくその女も。

何を言うんだ?とでもいう様に幸村を見上げとる。


って事は彼女ではないってことか・・・・?


幸村の「ほら、みんなちゃんと自己紹介しろよ。」と俺達を促す言葉に

慌てたように、それぞれ自己紹介を始めた。


どこからどう見ても普通の女。

特別可愛いわけでもないし、話し方が関西弁と言うだけで他に特徴がある様にも見えん。


そんな女をなぜ幸村は気に入っとる?

そんな女をなぜ俺はこんなに気になる?


足の先から観察するように視線を這わせると、

不快そうな顔で俺を見てきて、それを嘲笑うように皮肉な笑みを浮かべてやれば

ムッとしたような顔で俺を睨み返しながら、「萌木 雪」だと名乗った。


幸村の腰に巻きついた手を払いながら「彼女ではない」と言ったその言葉に、

なぜか緊張が解けるように心がホッとした。


何で幸村の彼女やなくて俺が安心する?


別にどうでもいいはず。

確かに幸村がこんな顔を女に見せる事には驚いたがそれだけじゃろ?

なぜこんなに気になるんじゃ・・・?

この女をもっと知りたいと思う。

それは幸村が気に入っとるからか・・・・?

それとも何か別の何かがあると言うのか・・・・?


俺がそんな事を考えている間に、なんやか追い返されるように皆が屋上を去っていく。

後に続くように俺も扉に手を掛けたところで、もう1度その女をゆっくりと振り返った。



「どうかしたのかい?仁王?」

「ずいぶんとおもろい毛並みの雌猫じゃのぅ。」

「ふふ。可愛いだろう?」

「かなりお気に入りなんじゃな・・・。」

「仁王。・・・・・・・つまらない事は考えない方がいいよ。」

「ククッ。怖いのぅ。」



お互い腹を読みあうような笑みを浮かべる俺達に、

何事かと顔をしかめていたが、「雌猫」が自分を指していることに気付いたのか

それこそ猫が威嚇するように俺を睨み上げてきた。


ククッ。面白い女じゃ。


さっきまでの不快な感情が、なぜかっスーッと溶けていき、

この女の心・・・・・解いてみたい。

そんな素直な想いが心に生まれた。


この気持ち、幸村に触発されてかそうやないのか・・・・・その答えはまだわからん。

だが俺は確実にこの女に興味を持ち、その答えを突き詰めたいと思っとる。


ヒラヒラと手を振りながら立ち去れば、後ろで扉が閉まる音が大きく響いた。




この音が俺達の全ての始まりを知らせる合図やったんかもしれん。




感じた事のない気持ちを湧き上がらせた不思議な女。

だけどこの俺の何かを刺激する面白い女かもしれん。


コレが俺の『萌木 雪』に対する第一印象。


もう1度逢いたいと思わずにはいられなかった。

だが、まさかその感情が、恋であり、愛に変わり、運命という名の物語を

二人で描いていく事になろうとは、夢にも思っていなかった・・・・


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久し振りの仁王連載。

前回の仁王視点バージョンです。


これからはヒロインと仁王の両視点で書いていきます。


ちょっと複雑すぎてわかりにくいかも・・・。

加筆修正しなきゃいかんかな・・・?