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わたしが貧しい学生だった頃、もう30年以上前の話。
秋晴れの陽も暮れた頃、友人の下宿先に集まって飲んだ。そして、ある重大任務を負う者を決する、腹ペコ同士数人のジャンケン勝負にわたしは敗れた。
「宅配ピザを注文する」。
いまなら手元のスマホで造作もないことだけど、当時は電話がない友人の部屋から、はるばる公衆電話まで赴くしかなかった。
そこでわたしは重大な過ちを犯したのだ、30年以上経っても鮮明に思い出すほどの。
電話ボックスは近所に二か所、坂を下った公園脇の方が少しだけ近かった。したたか酔ったわたしは、下宿の玄関先にあった自転車を無断拝借してそこに向かった。
近道をしようと、車の通れない狭い路地に入る。街灯のない坂道を勢いよく下り、電話ボックスの明かりが近づいて来たところで。
不意に体が宙に浮いて、すぐ地面に叩きつけられた。目を開くと、見えたのは月に照らされた夜空。
一瞬何が起こったか解らなかったけど、乗っていた自転車の前輪が、くにゃりと歪んでいて。
坂道が途中で階段になっているのを知らず、思い切り突っ込んでしまったのだ。傷だらけの血まみれで、それでも黄色い電話の受話器を掴んで告げた。「…はい、Lサイズでお願いします」。
遠い昔の夜。友人の下宿の大家の、高校生の娘さんの自転車を大破させたわたしは、修理代の請求書を当然に突き付けられて。
Lサイズのピザ10枚分の値段…余りの痛さに泣いたのだった。
ユッコこと岡田有希子さんが空の下にいた頃、あんなにありふれていた公衆電話。ここに書いた二か所の電話ボックスもかなり前から現存せず、時の流れを思い知らされました。
photo by yukikostarlight