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もうずっと昔の話。
若い頃、バイク仲間数人と毎年のように冬キャンプをした。
この時期のキャンプ場は空いているから、というだけの理由で。
行き先はどこがいい?その年の目的地を決めるとき、Yがぼそっと言った。
「…でっかい焚き火が、できるとこ」
曇り空の下でキャンプを決行したその日は、ものすごく寒かった。
誰もいないキャンプ場にたどり着いたら、まずは手早くテントを設営。それから夜の宴会準備だ。
調理師資格を持つOとKに晩飯を託し、わたしはYとともに火を焚べる。
夕闇が迫るなか、オレンジ色に輝く炎がゆらゆら揺れる。枯れ枝の爆ぜる音が静かに響く。
気がつけば、Yはなにやら破いては燃やしている。何枚も何枚も。
それはその年に別れたという、嫁さんだったひとの写真の束だった。
阪神大震災の年に、神戸で結婚したY。
あのとき、数日も連絡が取れなかった彼女と再会し、抱き合って無事を喜んだ…。そんな惚気話を幸せ一杯の二人から聞いて、心から羨ましかったのは何年前だったか。
最愛だったひとを、人生の記憶から消し去ろうとしているY。
焚き火の温もりを前にしても、心は冷え切っていたY。
その日はひときわに、煙が目にしみたように思う。
Yはその後再婚し、授かった子供が来年成人するという。わたしはユッコこと岡田有希子さんなきあとの出来事から過ぎ去った、時の長さを思うのでした。
photo by yukikostarlight