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その日は平日休みだった。
起きた時は厚い雲に覆われていた空が、いつのまにか11月らしからぬ強い陽差しに包まれている。
わたしは慌ててタイツとロンTを脱ぎ捨て、夏仕様のランパンと速乾Tを身に付ける。
昨夜の酒もようやく抜けようとする白昼。入念にウオーミングアップをして家を出た。
LSD。幻覚剤ではない。
「Long Slow Distance=長い距離をゆっくり走る」。ランニング用語だ。
ゆっくりとは、一般には1キロ7分程度のペースを指すらしい。
でも鈍足すぎるわたしのペースだと、1キロ8分以上かかってしまう。
意識せずとも、バッチリLSDをキメているのだ。
走っていると、老若男女いろんなランナーがわたしを抜いていく。
ハイヒールで足早に急ぐ若い女性に、あえなく抜き去られたこともあった。
一瞬見えた横顔。いま思えばわたしはそのとき、短い人生を駆け抜けたユッコこと岡田有希子さんの幻影を見ていたのかもしれない。
どんどん遠ざかっていく足音と小さな背中に、言い知れない寂しさを感じたのだった。
そんなわたしにこの日起こった、小さな小さな奇跡。
走っていた二時間ほどの間、誰にも抜かれなかったのだ。
11月にもかかわらず、気温がぐんぐん上がった平日の昼間。
そこをわざわざ選んで走る人がいなかった、たぶんそれだけの事なのだけど。
足が遅いことに変わりなくても。
抜かれまくる日ばかりじゃない、そうでない日だってやって来る。
わたしはわたしなんだ。これからもずっと、わたしのスピードで駆けていくんだ。
この広い空の下で。
見上げた柿の木に、紛れ込んだ紅い花…自然のいたずら?
photo by yukikostarlight