〝失うものはなにもない〟
二十代のわたしは、半ば本気で思っていました。
東京の風呂なしトイレ共同・家賃2万3000円の四畳半が、自分だけの根城だった頃に。
表玄関から内廊下に続く古色蒼然とした木造アパート。住人はみな同郷の先輩ということもあり、なんにもない部屋に鍵をかけることはめったにありませんでした。「ウチだけは大丈夫。盗られるようなものは、なにも置いてないから」と。
ある朝目覚めたら、なぜか知らない女の人が自分の部屋の扉を開けて立っている。何が起きたかわからず固まっていると「あの、漬物買ってもらえませんか?」…金を持ってないのは分かりそうなものなのに。
20代後半くらいの、整った面立ちの女性でした。なんで漬物売り?どうしてオンボロアパートに突撃してきたのか?全くもって謎です。
今思い出しても相当に緩い数年を過ごした後、就職し住む部屋は鉄筋アパートへグレードアップを果たしましたが、「盗られるものはなにもないから大丈夫」との楽観思考は変わりませんでした。そうして、扉の鍵をかけずに数十分ほど家を空けたある日のわたしに、空き巣という災いが訪れたのです。
帰ってきたらなにか部屋の様子が違う…よくみたらもともと散らかっていた部屋の万年床になんと靴跡が。慌てて被害を確認するとゲーム機の本体とセットしていたソフト、フィルムが入ったままのコンパクトカメラ(デジカメではない)がなくなっていました。警察に通報すると刑事ドラマで見た格好をした数人の捜査員がやってきて、部屋のあちこちで指紋を採っていきました。
銀色の粉、その後なかなか取れなくて困りました…
数時間がかりで事情聴取と現場検証が終わり、やっと一息ついたその時。
「警察ですが」なんと別の捜査員一行が、ダブってわが部屋を訪れたのでした。
数カ月後、警察署から連絡がありました。
いろんな地域で空き巣を重ねていた、犯人が捕まったとのこと。
私と同い年で同じ地方出身の、知らない男でした。
「犯人はゲーム機の本体をすぐに売ったので手元にない、私物で弁償したいと言っている。カメラは売れずに持っていたので返却できる」のだそうで、ゲームソフトは残念ながら返ってきませんでした。
わたしの部屋にあった数少ない〝金目のもの〟を持ち去られたわけですが、あの当時既に、フィルムカメラは金にならなかったというのが切なかったです。
〝失うものはなにもかも〟
五十代のわたしは、ただあの頃の自分を眩しく思うばかりです。
まもなく誰もが心騒ぐ、師走そして新年がやってきますね。
積み重ねてきた大切なものを失わないように。玄関の扉の、そして心の〝戸締まり〟を、しっかりやっていきたいものです。
いまのわたしが失いたくないもの。それは、ユッコこと岡田有希子さんを想うことができる、平穏な日常かな。それでは、行ってきます。
photo by yukikostarlight
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