ロンドン滞在記④

 

4月14日・木曜日。朝から小雨が降ったり止んだり。午後からShakespeare's Globeで芝居を観ることにしていたので、早めに出かけて劇場近くのPretに入った。フルーツとチョコバーとアメリカーノを買い、テムズ川を望む窓際の席で書き始める。対岸の左側にセントポール大聖堂が見える。雨の中、行き交う人々を見ながら書く。けっこう進んだ。



時間になり、そこから3分もかからずShakespeare's Globeへ。4月中旬はまだ野外の芝居を観られる期間ではなく、数年前にできた室内劇場のSam Wanamaker Playhouseで上演する「タイタス・アンドロニカス」を予約した。




ネット予約でドリンクとスナックを試しに頼んでみた。カフェの店員さんに聞くと少し離れたテーブルに手書きの「Kanome Yuki」とともにビールとスナックが置いてあった。自分の名前が書いてあるのがなんだか嬉しかった。



開場時間になり入場。わたしはこの劇場が大好きだ。比較的こじんまりとしていて、本蝋燭のシャンデリアが高い天井から上下し舞台に近づいたり離れたりすることにより明暗を出す。客席灯もすべて蝋燭。初めて訪れた時から、ロンドンに来たら必ずここで芝居を観ることにしている。




で、観劇。「タイタス・アンドロニカス」はシェイクスピア作品の中でもっとも人が多く死ぬ話だ。しかもかなり残酷に。だからそのあたりどう表現するのかどきどきしていた。始まると出演者が客席のあちこちから登場し、歌いながら客席の蝋燭に火を点けていく。全員女性で同じ形で色違いの作業着的なものを着ている。で、その歌がみんな「男も女も子どももみんな死ぬ、でも大丈夫」って明るく歌っちゃっていて面白い。しかもパワフル。これでもう、いきなり心が掴まれた。

 

それで実際「人が死ぬ」のをどう表していくのかというと、キャストが一人ひとつずつ蝋燭を持っていて、殺されたらその蝋燭が消えるというルール。ところがその蝋燭の消え方が「死に方」と連携していて、身体を切り刻まれて死んだという場合は実際にその死ぬ人物から蝋燭を取り上げ、料理のようにテーブルに乗せ、ナイフで切り刻む。実に様々な死ぬ方法を堪能できる(というと言い方おかしいけれど)。キャストは何役も兼ねているので、火のついた蝋燭を持ったら「誰かになった」ということなのだが、このルールが分かると内容を知っている者からするとあれどうなるんだろうと期待さえしてしまう。途中でハエが死んだするのだが、蝋燭を点けて「わたしはハエです」と言った役者が、生き始めて早々いきなり蝋燭を消されて、おいおいまじかよとその人を睨んだり。最終的にテーブルにジューサーミキサーが出てきたときは笑ってしまった(これはこの話を知っていれば何故か分かります)。


とはいえ、人間の悲喜こもごも、愛憎うずまく話を現代にやる意味を感じながら観られるつくりだった。俳優さんたちはどなたも上手く凄く魅力的で力強い。生演奏も盛り上げていく。凄くシンプルな舞台ながら、色んな面があらゆる角度で観られ、最後、シャンデリアの蝋燭たちもぶった斬られて終わった時には、もう感極まって力強く拍手した。観て良かった!そして次に訪れる時こそは野外を堪能したい。


これは4月下旬から。




4月15日・金曜日。前々から予約していたウィンザー城へ。ロンドン市内からは約1時間。5月にチャールズ国王の戴冠式があって盛り上がっているだろうし、どうしても体感しておきたかった。行って本当に良かった。衛兵交代式が間近で観られ、セントジョージ礼拝堂にも入ることができた。




昨年エリザベス女王が埋葬された場所。女王とフィリップ殿下が眠る場所に手を合わせられた。素晴らしい礼拝堂。居るだけで心が洗われていくような心地がした。カトリックの学校に幼稚園から大学まで通っていたのもあり、『教会』という場所は自分にとっては日常風景のひとつだった。お祈りも毎日していたしロザリオも持っていた。だからなのか、この礼拝堂の持つ包み込むような力に感謝の気持ちさえ感じた。土産売り場でロザリオを買った。



お城の中も観ることができた。世界各国の調度品がずらりと並ぶ部屋や、客室、寝室、豪華な部屋の数々が観られた。これがイギリスの歴史なんだな、と少し複雑な気持ちになりつつも、なかなか観られない絵や豪華な家具の数々に圧倒された。


ところで城はとても賑わっていた。家族連れも多く、偶然このような光景に出会えた。



夕方。ホテルに帰り、たまたまロンドンに来ていた照明家の鳥海咲さんに会った。東京とか名古屋じゃなく、咲さんに初めて出会ったこの地で会えたことでテンションが上がった。わたしのホテル近くのバーで飲みながら話す。




浮かれるわたし。


料理を頼みすぎてしまった。なぜか隣に座っていたお客さんと仲良くなってしまった。盛り上がってしまった。楽しい夜だった。