面会拒否で再婚相手に100万円の賠償命令?!離婚後も続く親権者との争い | 法律でメシを食う35歳のブログ~露木幸彦・公式ブログ~

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1980年生。国学院大学卒。行政書士・FP。金融機関では住宅ローンのトップセールス。離婚に特化し開業。年間相談件数は1,500超。離婚サポートnetの会員は1万人と日本最大。マスコミ掲載多数。読売、朝日、日経各新聞、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」等。

 ここ数日、「面会拒否で100万円」というニュースが注目を集めていますね。

娘との面会拒否、1回100万円の支払い命令 東京家裁
http://www.asahi.com/articles/ASK1P52G8K1PUTIL013.html

 

 夫婦が離婚すれば赤の他人。しかし、親子は両親が離婚しても親子のまま。離れて暮らす父親が「子供に会いたい」と思うのは当然のことですが、一方で子供を引き取った母親はどう思っているのでしょうか?

 

 不信感や嫌悪感、そして恨みや辛みが積み重なって「離婚」という決断を下したのだから「元夫」が子の父親だとしても一切、連絡を取りたくないし、顔を会わせたくないし、無視し続けたいと思うのは当然といえば当然。

 

 とはいえ離婚時に決めた面会の約束(日時、場所、送迎方法など)を守ろうとしないのだから裁判所は違反者に対して罰金(間接強制)を科すのも当然といえば当然。

 

 面会拒否を理由に裁判所が100万円という高額の罰金を認めたり、元妻だけでなく元妻の再婚相手にも罰金を科したり・・・金額の大小や違反者の属性に注目が集まりますが、物事の本質は「罰金をちらつかせないと子供に会わせようとしないこと」や「子供に会わせずに済むのなら罰金上等と開き直っていること」でしょう。

 

 面会の実現に向けて「元」夫婦間でどのようなやり取りが行われているのでしょうか?今回は私のところの相談実例から実現に漕ぎ着けたケースを紹介しましょう。

 

親子

 

 統計(平成23年度、全国母子世帯等調査結果報告。厚生労働省)によると、父と子が「現在も面会している」「面会したことがある」は合わせて全体の45.6%に対して、「面会してことはない」が50.9%に過ぎず、離婚から現在まで子どもの顔を一度も見たことのない父親が半分以上というのが偽らざる現実ですが、それもそのはず。離婚時、面会の約束(頻度や時間、場所、送迎方法など)を取り決めたのは全体の25.3%にとどまり、73.6%は再会の約束をすることなく、子どもと引き離されてしまったのだから。

 

 今回紹介する藤本慎太郎さんは離婚時、子どもとの面会を口約束で済ませざるを得なかったのですが、さらに離婚後、元妻への対応を誤ったせいで、元妻は「たった9万で子どもが育つと思っているの!だったら、1人はいらんわ!どっちか好きな方を1人、お前が引き取って!!」と激怒。その結果、子どもと直接会うことはもちろん、電話やメール、スカイプ、そしてプレゼントの郵送まで禁止されてしまい、途方に暮れていたところ、私のところへ相談しに来たのですが、一体、何があったのでしょうか?

 

泣く男性

 

 「せっかく離婚できたのに、これじゃ、まるで生き地獄ですよ!」

 

 慎太郎さんは現在42歳、建設会社の課長職で年収は750万円くらい。言ってみれば、どこにでもいる普通のサラリーマンです。慎太郎さんの顔はまさに「鬼の形相」で、烈火のごとく私に迫ってきました。顔の表面には脂汗がにじみ出ており、また両目の下には大きなクマが出来ており、少し尋常ではない顔つきでした。

 

 慎太郎さんが妻と離婚したのは4年前。夫婦の間には長男(蓮くん、当時9歳)と、長女(葵ちゃん、当時5歳)がいたそうです。話し合いの末、連くん、葵ちゃんの親権はどちらも妻さんが持つことに決まり、その代わりに慎太郎さんは妻に対し、養育費として子1人あたり毎月9万円を支払うという約束を交わしたようです。離婚時も現在も慎太郎さんの稼ぎはほとんど変わっていません。だから毎月の手取がわずか32万円の慎太郎さんにとって養育費は半分以上を占めており、財布がスッカラカンなのも無理はありません。

 

 そして妻が「口約束じゃ信用できない!」と言い張るので親権や養育費、そして「父と子の面会」について書面を残したのですが、書面化の手続は妻主導で行われ、面会の部分は「子の福祉に反しないよう、その都度、父と母が協議の上、決定する」という極めて曖昧でつかみどころのない書き方でした。しかし、当時の慎太郎さんは何とも思わなかったようです。

 

悩む男性

 

 「あのときは知識不足でした。後々のことを考えると、もうちょっと、ちゃんとした書き方をしていれば…」

 

 慎太郎さんは懺悔しますが、これはどういうことでしょうか?

 

 「だいたい養育費をちゃんと払ったって、もう半年近く、息子や娘に会えていないんです!こんな感じで働いても働いても、元妻に仕送りするばかりで、貯金なんてろくに出来やしない。何のために働いているのか・・・馬鹿馬鹿しいですよ!もう養育費を払うのをやめようかなと思っています!」

 

 慎太郎さんは身銭を削って欠かさず毎月、援助を続けているのだから、何かしら見返りがなければやっていられないでしょう。せめて子供の顔を見て安心したり、手をにぎって成長の跡を感じたり、相談にのって励ましてあげたりすることができれば、お金以外の面で「自分が息子、娘の父親であること」を実感することができ、ここまで前妻に対して敵意をむき出しにすることもなかったかもしれません。

 

怒る男性

 

 「僕は子どもたちのことをとても可愛がっていました。長男と会えば毎回、一緒に散髪をしに行くし、アトピーの長女とは一緒にお風呂に入って皮膚の状態を見てあげたり・・・また学期末には子どもたちが通知表を写真に撮って送ってくるので、褒めてあげたり、ダメ出しをしたり。前妻のせいで今、離れ離れで暮らしていますが、僕はそんな感じで一緒に住んでいるときと同じか、それ以上に子どもたちと関わってきたつもりです。」

 

 そんなふうに妻と離婚し、子どもと別戸籍に変わり、別々に暮らすことになったとはいえ、慎太郎さんいわく、子どもたちとの関係は最初の4年間、ずっと良好で大きな不満はなかったそうですが、潮目が変わったのは今年3月のことでした。

 

 長男が慎太郎さんに「部活のユニフォームを買ってほしい」と頼んできたことがきっかけでした。慎太郎さんは今までマンガ本や運動靴、そして携帯ゲーム機(ニンテンドーDS)まで…子どもからの頼み事を断ったことはなく、だからこそ、今回も長男に言われるがまま部活のユニフォームを揃えてあげたそうです。

 

 しかし、本当にこのまま(子どもに頼まれたら、すべて夫が全額負担するのは当然)で良いのかどうか。特に今回は「前妻に言わされている」感じがしたので、ユニフォーム代はたかが5,000円程度ですが、「子どもをダシに金を出させるのかいかがなものか」という憤りがふつふつと湧いてきたようで。

 

お金

 

 「ユニフォームのお金は、本当なら養育費のなかから出すべきではないか?」

 

 慎太郎さんは思わず、元妻に対してそんなメールを送ってしまったのですが、元妻はどんな反応をしたでしょうか?慎太郎さんが良かれと思って口にしたつもりなのに完全に裏目に出てしまったのです。どうやら元妻の逆鱗に触れてしまったようで…

 

 「たった8万で子どもが育つと思っているの!だったら、1人はいらんわ!どっちか好きな方を1人、お前が引き取って!!いらない子どもは月1回、生存確認をさせろ!」

 

 元妻はメールの返事のなかで、そんなふうに暴言を吐いたようです。とはいえ慎太郎さんは元妻の言うことを真に受けることができるでしょうか?すでに離婚から4年が経過しており、元妻のところで生活の基盤(住居、学校、地域など)を築いているのに、親の都合で振り回すようなマネをするのは、子どもたちのためにならないでしょう。そもそも慎太郎さんは平日、朝から晩まで働いているので、子どもたちの面倒を見るのは時間的に不可能ですし、年収750万円では家政婦を雇うことも金銭的に厳しいですが、それなのに…

 

がっかりメール③

 

「どうせ引き取れっこないのだから、ガタガタ言わず、言われた通りに金を出せばいいのよ!」

 

 元妻のそんな魂胆が見え見えでしたが、さらに慎太郎さんの目には元妻が自分(慎太郎さん)の足元を見ているように思えたので、完全に頭に血が上ってしまい、思わず、売り言葉に買い言葉で応戦してしまったのです。

 

 「そんなことを言うんだったら(子どもたちに)離婚の経緯を話すぞ!」

 

 ところで慎太郎さん夫婦はどうして離婚したのでしょうか?話は8年前に遡りますが、夫婦関係に亀裂が入ったのは、(元)妻に度重なる金銭トラブルが原因でした。とにかく妻は儲け話の類が大好きで、例えば、質屋でブランドものの財布や鞄を仕入れ、ネット上のオークションで売れば必ず、利益が出るという儲け話を耳にしたのですが、実際にやってみると、オークションの売値は質屋の仕入れ値を下回るばかりで、むしろ利益が出るところか、損失を垂れ流すばかりで大赤字に。

 

 さらに大損を一攫千金で取り返そうと思ったのでしょうか?今度はFXで一儲けしようと企てたのですが、案の定、上手くはいかず、今度は赤字が信用取引の部分まで拡大し、証券会社から追証を求められる始末。最終的に妻はデリヘルのアルバイトを始めたのですが、携帯の履歴(デリヘル客の予約)、鞄のなかに忍ばせたローションや大人の玩具、そして無断で解約し、借金返済に充てた学資保険の返戻金明細…それらがきっかけで足がつき、慎太郎さんに悪事の全容を知られてしまい、三下り半をつきつけられてしまったというわけ。

 

書類

 

 しかし、離婚はあくまで慎太郎さんと元妻の問題であり、子どもは両親を選んで産まれてくることはできないのだから、関係ないといえば関係ないでしょう。将来的に離婚の経緯や理由、原因について知る機会があるかもしれませんが、今はまだ小さいのだから「知らなくても良いこと」もあるはず。そのため、「元夫が離婚の経緯を子供に話すと言っているから」という理由で、元妻に子どもたちとの接触を断られても仕方がありませんし、さすがの私もフォローのしようがなかったのですが、当時の慎太郎さんは完全に冷静さを失っていました。

 

 残念ながら、慎太郎さんの失態は火に油を注いでしまったようで、それ以降、元妻は全く子どもたちと取り次いでくれることはなくなり…「息子には電話もするな、メールもするな、手紙を送るな。そして誕生日やクリスマスにプレゼントを郵送してくるな。」そんなふうに元妻は言いたい放題で、慎太郎さんは子どもたちに直接会うことが叶わないのはもちろん、もちろん、電話やメール、スカイプ、そしてプレゼントの郵送まで禁止されてしまい…楽しみにしていた運動会や父兄参観への参加、そしてゴールデンウィークや夏休みの旅行も実現せず、途方に暮れていたのです。

 

 「息子には『パパは死んじゃったの』娘には『パパはお星様になったの』風の噂じゃ、そんなことを吹き込んでいるらしいですよ!本当にもう踏んだり、蹴ったりです。これじゃ本当に「ムダ金」ですよ。僕の財布はアイツの打出の小槌じゃないんですよ!僕のことを銀行ATMか何かと勘違いしてるんじゃないか!」

 

 このように慎太郎さんが元妻に対して激しく憤るのも無理はありませんが、どのように妻を説得し、いったん途切れてしまった子どもとの接点を取戻し、関係を修復し、もう1度「子の父親」として復活することができるでしょうか?

 

桜

 

 残念ながら、元妻の方から「あのときは悪かったわ。子どもたちも会いたがっているから、予定を決めさせて欲しい」などと平謝りしてくることはなく、ただただ時間ばかりが過ぎていったので、さすがの慎太郎さんの業を煮やして元妻のところへ直談判をしに行ったのですが、話は遅々として進まなかったようです。わがまま放題を言い続け、意味不明な持論を展開し続け、過激なヒステリー衝動を起こし続ければ、どうせ途中であきらめるだろう。そんなふうに慎太郎さんは元妻に甘く見られていたのでしょうか。元妻はいいがかりにも似た難癖をつけてきたのです。

 

 「離婚したんだから、もう関係ないでしょ!私たちに付きまとわないでほしい」

 

 元妻はそんなふうに逆上してきたそうですが、まるで子供を人質にとるような振る舞いを目の当たりにして慎太郎さんは怒りのあまり手に震えが止まらなかったそうです。

 

 法律上、面接交渉権(面会する権利)が認められているのですが、これは父から子だけでなく、子から父への面会も含まれているはずです。だから慎太郎さんは「子どもたちとの面会を求めても、頑なに拒もうとするのは、子供の権利を蔑ろにするのと同じではないか?」と言い返したのですが…

 

 民法766条
「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。」

 

盾

 

 「何ができるって言うの?あんたは子どものことを何にも分かってないでしょ!金さえ払えばいいのよ!!」

 

 元妻はそれでも首を縦に振ることなく、さらに畳み掛けてきたのです。本来、父親の子供に対する責任はお金だけでしょうか?いや、育児や躾、遊び相手など多岐に渡るでしょう。だから慎太郎さんは養育費を支払うだけでは、すべての責任を全うしたとは言えませんが、それなのに元妻が慎太郎さんと子どもたちと直接会わせようとしないのなら、父親に褒めてもらったり、怒ってもらったり、教えてもらう「権利」を元妻が自分の都合で放棄するようなものです。だから慎太郎さんは「養育費だけじゃない。お金以外の面でも、父親の役割を担わせて欲しいんだ」と訴えかけたのですが…

 

 「もう頭に来た!出るところ出てもいいんだからね!!」

 

 あの手この手で元妻を説得できそうな手ごたえを掴みかけた矢先、元妻はこんなふうにちゃぶ台返しをひっくり返してきたそうです。結局、春休みから夏休みまでの5ヶ月間、父子の面会は1度たりとも実現していませんが、もし元妻の言う通り、本当に家庭裁判所へ面接交渉の調停を申し立てた場合、どうなるでしょうか?

 

注射

 

 離婚時は成り行き上、具体的な面会の条件を書面に残すことが叶わなかったのですが、示談ではなく調停に発展した場合、もはや慎太郎さんは離婚時のように曖昧な書き方で済ませる必要はないでしょう。今度は具体的な回数、時間、場所、面会方法(食事、買物、映画を見るなど)送迎方法などを裁判所が決定し、そして書面化してくれる可能性が高いですが、それだけではありません。

 

 さらに元妻が裁判所で面会条件が決まったにも関わらず、それでも協力しない場合、どうなるのでしょうか?平成25年3月より制度が変わり(平成25年3月28日最高裁判決)裁判所の決定に違反すると間接強制(裁判所からの罰金命令)の対象になったので、元妻が面会を断わるたびに毎回、罰金を支払わなければならない可能性もあるのです。

 

 「子どもたちに会せないと罰金を払わなくちゃいけないんだぞ!それでもいいのか!!」

 

そんなふうに慎太郎さんは元妻に付きつけたのですが、さすがに「やりすぎではないか」と思われる方も多いでしょう。しかし、ここまで言わないと、まともに話を聞こうとしない元妻にも相応の非はあるはずです。

 

ハードル

 

 もし離婚の反省をもとに元妻が過去の過ちを振り返り、心を入れ替え、言動を改めようとしているのなら、今回のようなトラブルが起こらなかったでしょう。きっと元妻の性根は今も変わっていないはず。結局のところ、元妻は金に汚いタイプで興味関心はお金のみ。しかも儲け話にすぐ引っかかる性分なので、子どものことを「金ズル」としか思っておらず、慎太郎さんと子どもとの面会を取り次ぐことで養育費の増額が期待できるのならともかく、面会させてもさせなくても養育費が変わらないのなら「面会させない方」を選ぶのは、元妻の行動パターンに照らせば分かり切ったことです。

 

 逆にいえば、「面会させる+罰金なし」「面会させない+罰金あり」という二択を提示すれば、元妻は「罰金あり、なし」の部分しか目に入らないので、お金の損得勘定だけで「面会させる」を選ぶだろうと。少し厳しすぎるかもしれませんが、元妻の性格を踏まえた上で、このようなやり方をせざるを得なかったというのが実情です。

 

ゲリラ2

 

 とはいえ慎太郎さんに許されたのは「元妻の実家の庭」という劣悪な面会の条件。これでは元妻の親戚一同による衆人環視下ですが、兎にも角にも夏休みも終わろうとする8月4週目、ようやく子どもたちと5ヶ月ぶりの再会を果たしたのです。空白の時間はこれから少しずつ取り戻していくしかないでしょう。

 

 このように夫婦は離婚したら赤の他人に成り下がるのは仕方ありませんが、一方で親子はどうでしょうか?子どもたちの唯一の父親であり、血がつながった肉親であり、代えのきかない存在ですが、そのことは出産からずっと、そして離婚後も何ら変わることはなく、親子関係は永遠に続いていくのです。だからこそ、父親が子どもたちに対してどんなふうに接して、どのように関わって、どんな影響を与えていくのか、子どもたちの人生において極めて大事ですが、元妻は自分目線ではなく「子ども目線」で、そして相手が元夫ではなく「子の父親」と思って見て欲しいところです。