私たちの日常生活は急速にデジタル化が進み、夜遅くまでスマートフォンやパソコンの画面を見たり、夜間も部屋を明るく照らしたりすることが一般的になっています。そんな現代社会において、自然の光と闇のバランスが崩れることが健康にどのような影響をもたらすのでしょうか?
 
米国科学アカデミー紀要(PNAS)に2024年10月に発表された研究『Brighter nights and darker days predict higher mortality risk: A prospective analysis of personal light exposure in >88,000 individuals(明るい夜と暗い昼間は死亡リスクの上昇を予測する:8万8千人以上における個人的な光曝露の前向き解析)』は、この問いに対する重要な知見を提供しています。この記事では、この研究の内容と私たちの健康への影響について解説します。
 

 

研究の概要 

 

 
 研究の目的と方法
 
この研究は、個人の昼間および夜間の光曝露パターンが死亡リスクを予測するかどうかを調査することを目的としています。英国バイオバンクに登録された約8万9千人の参加者(平均年齢62.4歳、57%が女性)を対象に、各参加者が1週間装着した光センサーから約1300万時間分のデータを収集しました。
 
研究チームは24時間の光プロファイルを因子分析し、「昼間の光曝露」と「夜間の光曝露」を定義。同時に、光データから計算モデルでサーカディアンリズム(体内時計)の振幅と位相も推定しました。平均8年間の追跡期間中、3,750人の死亡が記録されました。
 
主な発見
 
1. **昼間の光曝露が多い人ほど死亡リスクが低い**:
   - 50~70パーセンタイル:調整ハザード比(aHR)0.84~0.90
   - 70~90パーセンタイル:aHR 0.74~0.84
   - 90~100パーセンタイル:aHR 0.66~0.83
 
2. **夜間の光曝露が多い人ほど死亡リスクが高い**:
   - 70~90パーセンタイル:aHR 1.15~1.18
   - 90~100パーセンタイル:aHR 1.21~1.34
 
3. **サーカディアンリズム変数も死亡リスクと関連**:
   - 振幅が低い:aHR 0.90~0.96(標準偏差あたり)
   - 位相が早すぎる:aHR 1.16~1.30
   - 位相が遅すぎる:aHR 1.13~1.20
 
4. **特に心臓代謝疾患による死亡リスク**との関連が強く、これらの結果は年齢、性別、民族性、季節、社会経済状況、生活習慣などの要因で調整後も一貫していました。
 

 

サーカディアンリズムとは何か?

 

 
サーカディアンリズム(概日リズム)は、約24時間周期で変動する生体内のリズムです。私たちの体内には「体内時計」があり、これは主に脳の視交叉上核(SCN)という部分に存在します。この体内時計は、光を主な手がかりとして調整され、睡眠-覚醒サイクル、ホルモン分泌、体温、血圧など、体の基本的な機能をコントロールしています。
 
サーカディアンリズムは次のような仕組みで機能しています:
 
1. **光情報の受け取り**:目の網膜にある特殊な細胞(ipRGC)が光を感知
2. **情報伝達**:光の情報が視交叉上核に伝えられる
3. **リズム調整**:視交叉上核が体内のさまざまな機能のリズムを調節
4. **ホルモン分泌**:夜間のメラトニン分泌など、時間に応じたホルモンコントロール
 
このリズムが乱れると、肥満、糖尿病、心血管疾患、免疫機能低下、うつ病などのリスクが高まることが知られています。
 

 

光曝露がサーカディアンリズムと健康に与える影響 

 

自然光の重要性

 

自然光、特に昼間の高強度の光は次のような効果をもたらします。¥
 
  1. - 睡眠のタイミングを早める
  2. - 睡眠の質を向上させる
  3. - 入眠潜時(寝つくまでの時間)を短くする
  4. - 徐波睡眠(深い睡眠)を増加させる
 
これらの効果は、体内時計を適切に設定し、メラトニンなどのホルモン分泌を正常に保つことで生じます。今回の研究でも、昼間の光曝露が多い人ほど死亡リスクが低いことが明確に示されました。
 

 

夜間の人工光の問題

 

 
現代社会では、LEDライト、スマートフォン、タブレット、テレビなどの電子機器から発せられる光に夜間も曝されることが増えています。これらの人工光は体内時計に混乱をきたす可能性があります。
 
  1. - メラトニンを抑制する
  2. - 睡眠の開始を遅らせる
  3. - 睡眠の質を低下させる
  4. - 翌朝の覚醒度を下げる
 
今回の研究では、夜間の光曝露が多い人ほど、死亡リスクが高まることが示されました。特に心臓代謝疾患(心臓病や糖尿病など)による死亡リスクとの関連が強いのは注目すべき点です。
 

 

健康的な光曝露パターンを作るためのヒント 

 

 
この研究結果を踏まえ、健康的な光曝露パターンを作るための実践的なヒントをご紹介します

昼間の光曝露を増やす

 

1. 朝の光を浴びる:起床後できるだけ早く外に出て、自然光を浴びましょう
2. 日中の屋外活動:ランチタイムに短い散歩をするなど、日中に外出する機会を作る
3. 室内でも窓際で過ごす:オフィスでも自然光が入る場所で作業する
 

 

夜間の光曝露を減らす

 

 

1. 就寝の2-3時間前からは照明を暗くする:暖色系の間接照明に切り替える

2. 電子機器の使用を制限する:就寝前のスマートフォンやタブレットの使用を控える

3. 寝室を暗くする:カーテンやブラインドで外からの光を遮る

 

 

 規則正しいリズムを維持する

 

 
1. 起床・就寝時間を一定に:休日も含めて生活リズムを一定に保つ
2. 食事の時間も規則的に:体内時計は食事のタイミングからも影響を受ける
3. 運動は夕方までに:夜遅い時間の激しい運動は避ける
 

 

 まとめ 

 

 
今回のPNAS掲載研究は、光曝露パターンが死亡リスクに関連することを示した重要な知見です。特に「明るい夜と暗い昼間」という現代人に増えがちなパターンが、死亡リスク、特に心臓代謝疾患による死亡リスクを高めることが明らかになりました。
 
私たちの祖先は自然の光と闇のリズムに合わせて生活していましたが、現代の生活様式はそれを大きく変えています。自然の光と闇のリズムを尊重し、昼間は積極的に光を浴び、夜間の人工光を制限することで、サーカディアンリズムを整え、健康と寿命にポジティブな影響をもたらす可能性があります。
 
毎日の小さな習慣の変化が、長期的な健康と寿命に大きな違いをもたらすかもしれません。自分自身の光環境を見直し、より健康的なライフスタイルを目指しましょう。
 
## 参考文献
 
- Windred, D. P., Burns, A. C., Lane, J. M., Olivier, P., Rutter, M. K., Saxena, R., Phillips, A. J. K., & Cain, S. W. (2024). Brighter nights and darker days predict higher mortality risk: A prospective analysis of personal light exposure in >88,000 individuals. Proceedings of the National Academy of Sciences, 121(43), e2405924121. [https://doi.org/10.1073/pnas.2405924121](https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.2405924121)
 
- Blume, C., Garbazza, C., & Spitschan, M. (2019). Effects of light on human circadian rhythms, sleep and mood. Somnologie, 23(3), 147–156. [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6751071/](https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6751071/)