「旅と日々」
を観てきました。
ストーリーは、
「強い日差しが降り注ぐ夏の海。浜辺にひとりたたずんでいた夏男は、影のある女・渚と出会い、ふたりは何を語るでもなく散策する。翌日、再び浜辺で会った夏男と渚は、台風が接近し大雨が降りしきるなか、海で泳ぐのだった。」
とある大学の授業で、つげ義春の漫画を原作に李が脚本を書いた映画を上映している。上映後、質疑応答で学生から映画の感想を問われた李は、自分には才能がないと思ったと答える。
冬になり、李は何となく旅をし、ひょんなことから雪に覆われた山奥を訪れ、おんぼろ宿にたどり着く。宿の主人・べん造はやる気がなく、暖房もまともな食事もない。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出す。後は、映画を観てくださいね。
つげ義春先生の原作を映画化した作品でした。「海辺の叙景」が劇中劇として描かれ、主人公の李が脚本を書いて映画化されたという設定でした。李が良い脚本に出来なかったなと感じて旅に出て、不思議な民宿に泊まるという話が「ほんやら洞のべんさん」を題材として描かれていました。
まず、海辺の叙景ですが、ほとんど原作通りの話になっていました。と言っても、つげ先生のお話ははっきりした結末という感じではなく、何となくドヨーンとした感じで終わっていて、だからどうなったの??という感じなんです。自分で想像するしかないんですよ。
私はこの原作を持っていますが、大雨の中、海で泳いでいる男子はこのまま死んでしまうんじゃないかと感じました。カッコ良く泳いでいる姿を彼女に見せて、そのまま戻って来ず、彼女は何事も無かったように去っていくんじゃないかなと思うんです。それが”つげ作品”と私は思っているので、何もおかしくないのですが、一般的な作品としては、きっと???となるんでしょうね。
李はそんなつげ作品のどんよりした感じを脚本としてしっかりと起こしていたと思うのですが、自分では上手く出来なかったと思っているようで、自分には才能が無いと挨拶で言ってしまうほどでした。才能なんて誰にでもあって、誰にも無いのにね。自分の心持次第だから、自分には才能があると自分で思っていないと良い作品は出来ません。そういうもんです。
その後、恩師が亡くなり、家を訪ねると、双子の弟が同じ顔で出迎えてくれて、形見だと言ってカメラを押し付けるんです。この辺り、ちょっと意味が分からなかったのですが、これもつげ作品にありがちな、同じ顔の主人が出てきて奇妙な体験をするというのから来ているのかなと思いました。
亡くなった恩師(教授)が旅にでも出てみたらと言っていたことを思い出したのか、李はそのカメラを持って旅に出るんです。何となく計画も何も立てずに雪国へ向かう列車に乗ったのかな。一面雪の駅で降りて、さて宿でも探すかと思うのですが、唯の田舎町なので簡単に宿など見つかるはずもなく、随分とうろついた末に古い民宿を見つけます。
そこで宿を頼みますが、その主人がゴロゴロしているだけの人で、変なおっさんなんです。何もしてくれず、ご飯もまともなものが無く、布団も自分で敷くんです。あり得ないんだけど、他に誰もおらず、仕方なく自分で何でもやっていました。
主人のべん造は無口で下を向いてばかりでしたが、せっかくのお客に悪いと思ったのか、夜に李を連れて出かけることにするんです。大雪が積もっている中を歩いて出かけるなんて、酷い主人なんだけど、きっと彼は少しはお客の為になることをしようと思ったんじゃないかな。
でもこのお話、何も起きないんです。淡々とあった事を描いていくだけで、何も起きずなんです。でもね、つげ先生の漫画もそうなんだけど、そこに時間の経過が描かれているんですよ。そこでその人物が過ごした時間が絵の中に描かれているんです。ただ李とべん造が雪の中を歩いて行き、迷子みたいになったり、何とも言えない空気感が漂うんですけど何も起きず、ただその雪の中で過ごしていたというだけなんです。
でもきっと李が体験した時間は、何かを創る者として自分と対話が出来た時間だったと思うし、”人の死”や”残るモノ”を認識して現実世界に何かを残すことが出来るかなと考えたのかもしれない。時間って人間を押し潰すことも出来るけど、静かに対話をすることも出来るんですよね。自分を見つめ直す大切な時間だと思いました。
映像が美しかったです。最初の海辺の叙景でも海を歩く二人の男女の姿が綺麗だったし、雪の中の李とべん造の姿も良かったです。私、最後の方までべん造が堤さんとは気が付かず、あれ??と途中で気が付いたのでした。(笑)
つげ先生の作品を実写化してくださるのは嬉しいんだけど、これは万人受けはしないです。絵から醸し出される不気味さと何も起こらない日常が描かれていて、原作ファンは「おお~!」となるけど、何も知らない人には何が起こっているのか解らなくて眠くなると言われるんじゃないかな。好き嫌いがあると思います。
私はこの映画、お薦めしたいと思います。但し、つげ先生の漫画が好きな方には良いけど、そうでない方は眠くなってしまうかもしれません。絵だけを楽しむなら良いのかな。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。![]()
「旅と日々」










