イタリア映画祭にて、
「ノスタルジア」
を観ました
ストーリーは、
40年ぶりにフェリーチェ・ラスコは、エジプトのカイロから、生まれ故郷のナポリのサニタ地区に戻ってきた。まだ少年だった頃に故郷を離れ、人生の大半を中東で過ごしてきたのだ。ナポリに残していた両親を訪ねると、既に義父は亡くなっており、母親が環境の悪い部屋に移り住んでいた。
フェリーチェはカイロで成功し、建設会社を経営しており、すぐに不動産会社を周り、環境の良い部屋へ母親を移し、介護を始める。今回の帰省は、妻が母親の様子を見た方が良いと言ってくれて、来ることになったのだった。既に認知症を発症し、目も見えず、身体もあまり動かない母親に会いにきて良かったと感じたフェリーチェは、故郷で暮らしたいと思い始める。
母の介護を始めてしばらくすると、母親は亡くなってしまう。まにあって良かったと思う反面、もっと早く戻って来ていればという思いもよぎる。そんなフェリーチェに寄り添ってくれる神父がいた。
既に異教徒となったフェリーチェだが、母の葬儀をきっかけに教区の救済活動に熱心なドン・ルイージと言葉を交わすようになる。ルイージを信頼し、彼の活動を助け始めたフェリーチェは、彼に重大な秘密を明かす。それは、幼馴染のオレステのことだった。
ナポリで過ごすうちに、かつての幼馴染で親友だったオレステと過ごした遠い記憶が彼の脳裏によみがえる。オレステ・スパジアーノは、地区で最も恐れられ忌み嫌われ、名前を口にするのも憚られる犯罪者になっていた。
ナポリが彼にとって失われた人生の象徴であり、二度とここを離れることはできないと悟った時、彼は郷愁(ノスタルジア)という抗いようのない力に突き動かされていく。
というお話です。
この映画、思っていたよりもとってもシビアな内容の映画でした。最後に、”ぬるい事言ってんじゃないよ。”と、現実を突きつけられるような、そんな感じです。でも、確かにそうなんです。同じ青春を過ごしていても、海外に出て成功して帰ってきたフェリーチェと、ずっと同じ町で暮らし、ナポリの厳しい現実を受け止めてきたオレステ。どんなに仲が良かった親友でも、簡単に解り合える訳がありません。
フェリーチェは若い頃に、ある事件をきっかけに、叔父によってカイロに連れていかれ、それから40年間、海外で働いていました。ずっと、ナポリには帰って来ていなかったんです。でも、母親も年老いたし、一度、見にいってきなさいと妻に言われ、40年ぶりに故郷の地に降り立ちました。
懐かしいナポリですが、街に住んでいる人々は変わっており、雰囲気も以前とは違い、マフィア的なグループが仕切っているようでした。その悪事を働いているグループのトップは、フェリーチェの親友だったオレステ・スパジアーノです。ある事件を最後に、別れの言葉をいう暇も無く、エジプトに連れていかれてしまったフェリーチェは、彼を見捨てたような形になったことをずっと悔やんでいました。
母親は弱っており、心にわだかまりはあるけど戻ってきてよかったとフェリーチェは思い、母親の介護に勤しみます。目も見えず、認知症も患ってきています。以前は、義父との関係が上手くいかずに、母親との関係もあまり良くありませんでしたが、今は義父も亡くなり、自分だけで母親の面倒を見ながら、昔を懐かしみます。
そんなフェリーチェを、影から見つめるオレテスは、自分を捨てて出て行ったフェリーチェに憎しみを抱きながらも、やっぱり友達だという気持ちも捨てきれなかったのかなと思います。なので、自分からは逢いに行かなかったんじゃないかな。フェリーチェが何て言って逢いに来るかを待っていたのだと思います。
ここで忘れちゃいけないのが、フェリーチェとオレステは、全く違う40年を歩んで来てしまったという事なんです。昔は親友で仲が良かったかもしれないけど、既に40年も経っていて、それぞれの生活があり、立場もある。オレステの立場からすると、いくら昔に仲が良かったからと言って、街の自分たちのルールを曲げるようなことがあってはいけないんです。
オレステは、フェリーチェが信頼している牧師たちとは敵対関係にあります。なので、フェリーチェと昔のように友人にはなれないんです。だから、オレステはフェリーチェに、ナポリから出て行くようにと、再三にわたり、警告をするんです。出て行ってくれないと、街のバランスが崩れてしまうからなんです。
このナポリを出て、海外で働いていたフェリーチェには、そんな地域の特殊事情などは分らず、ただ、昔の友達のオレステと仲直りして、以前のように、ナポリで暮らして行きたいという気持ちだけなんです。現実が見えておらず、ただ、昔の思いだけで突っ走っているんです。それじゃ、オレステの方は困りますよね。今の立場を守らなければ、部下も沢山いるのだから、彼らの面倒も見なければいけない。オレステの辛い立場も、良く描かれていました。
この映画の題名通り、フェリーチェはノスタルジーを感じ、オレステは、現在だけを生きていたという事です。何ともシビアな映画でした。オレステ役のトンマーゾ・ラーニョさんがゲストでいらしていて、お話をして下さったのですが、トンマーゾさんは舞台がメインで、映画にも出演しているようで、映画は監督のモノで、舞台は俳優のモノだと言っていました。
映画だと、自分の演技以上に映像で感情を表してくれるから監督の采配に懸かっているけど、舞台は、俳優が自分の演技のみで、客席の全員に気持ちを伝えなくてはいけない。トンマーゾさんは、舞台をやっているから、感情を伝えるという意味ややり方が解かっているので、監督に協力が出来るというような事を仰っていました。やはり、イタリアでも、舞台と映画、どちらもやっている方が、実力が上がっているようです。
私は、この映画、お薦めしたいと思います。キャストも素晴らしいし、このストーリーも良かったです。どこの国でも、地域の外から帰ってきた人間は、空気が読めないというか、地元民の気持ちが理解出来ないんだなという事が描かれていました。昔住んでいたからって、今は異邦人なんだから、周りに合わせるように観察をしなくちゃダメですよね。難しい問題です。日本公開は決まっていないようですが、もし、機会があったら、ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「イタリア映画祭 2023」