舞台「金閣寺」を観てきました。
ストーリーは、
丹後の貧しい寺の子として生まれた主人公・溝口。彼は生来の吃音のため同年代の人間と上手く接することが出来ない。孤独にもがく彼に父は、金閣の美しさを聞かせるのだが、初めて金閣を観た溝口にとって、現実の金閣は美しいとは思えないものだった。その後、父の遺志に従い金閣寺の徒弟となった彼は、鶴川と出会う。まぶしいほどの明るさで手を差し伸べ、自分という存在を認めてくれる鶴川。大学へ進学した溝口は、鶴川から休み時間を別々に過ごすことを提案され、途方に暮れる。そんな彼の前に現れたのが、内翻足の男・柏木だった。自分の内翻足すらも武器に変え、悪をも肯定して不敵に生きる柏木に溝口は憧れを抱き、惹かれていく。溝口を心配し、柏木との付き合いを注意する鶴川に、溝口は反発してしまう。さみしげに立ち去る鶴川。そして彼はそのまま、帰省先でこの世から去る。
鶴川を失って再び孤独に沈む溝口は、金閣による呪縛が大きくなり、柏木とも決別し、金閣の呪縛から逃れるため、外界と繋がる為に、金閣へ火を放つ事を決意する。
というお話です。
私は、元々、三島由紀夫のファンなので、この金閣寺も、私のイメージが強く頭にあり、舞台を観ても、どうなんだろうと思いながらも、観に行ってきました。私の解釈とはちょっと違うけど、でも、納得の行く内容で、素晴らしいキャストで、感動でした。全てが納得出来たとは言えないけど、こういう解釈もあるのだろうなと思えて、それも、良かったと思います。
私は、金閣寺を三島の内面の経歴書と思っているのですが、三島の姿が、主人公にも、友人にも、和尚にも、全てに被るところがあり、人間の汚い部分が随所に描かれていて、そんな世界に生きる、子供のまま大きくなってしまったような主人公が、どうやって折り合いをつけて行くのかというところが、読者や、観覧者の気持ちを絞めつけて行くんです。結構、しんどい話だと思います。
溝口という青年は、子供の頃から、あまり母親を良く思っていなくて(これには訳があります。)、父親のいう事は、正しいと思うような子供でした。だから、父親が美しいのだと信仰している金閣寺は、父親が居なくなった後、彼にとっての父親=呪縛だったのではないかと思います。だから溝口は、その呪縛から逃れるために、外の世界と繋がる為に、金閣を燃やすと言う事を選んだのだと思うんです。
彼の中には、ずっと、金閣という、美しく強く、何者をも圧倒する荘厳さを持った神が宿っていて、それが、彼に色々な制約を与え、雁字搦めにしていたんです。そこから抜け出したくて、溝口は、必死でもがいていたのに、和尚は解ってくれなかった。溝口にとって、和尚だけは、自分を理解して、ただ一人、金閣から護ってくれる人なのではないかと思っていたのに、和尚も欲にまみれた、唯の人だと言う事を知ってしまいます。それも、彼を金閣への放火という道に進ませた一つだったのだと思いました。
昔から、吃音で虐められたり、蔑まれたりした溝口は、とても劣等感が強く、寺でも学校でも、人との付き合いが出来ず、いつも鶴川と一緒にいる事を喜びとしていました。鶴川は、きっと、溝口といる事を楽しんでいたのですが、溝口が孤立してしまうのを心配し、色々な人と交わる事が出来るようにと、学校の休み時間を他の人と過ごす努力をして欲しいと思って、別々にしようと思ったのかなと思いました。でも、溝口は、鶴川が自分を捨てたと思い、自分と同じような障害を持った柏木になら相手にしてくれるのではないかと近づいていきます。
柏木は、溝口とは正反対の悪と言って良いような人間です。彼によって、溝口が汚れてしまうのを悲しんだ鶴川は、柏木と付き合うのは辞めた方が良いと言うのですが、溝口は反発します。私は、ここで、鶴川は、溝口を友達という以上に愛していたのではないかと思ったんです。舞台を観ていても、やっぱり、そう考えてしまいました。鶴川は、自分が子供の頃から同性が好きだと言うことに悩み、ずっと心の中に抱えていたのではないかと。そう思うと、彼の自殺も、最後の言葉も、溝口への態度も、辻褄が合うんです。舞台でも、原作でも、ありふれた恋愛事情としか表現されず、ワザと読む人の考えを待っているような表現でしたが、私は、勝手に、自分で解釈をしてしまいました。溝口には、吃音がありましたが、美しい心は、他の何ものにも代えがたいほどの光を発していたのだと思います。だからこそ、鶴川は彼に惹かれたと思うし、柏木は彼を汚してやろうと思ったのではないかと思います。そして、その美しさ故に、溝口は、金閣を燃やさざるを得なかった。
溝口は、自分の美しさに気が付かず、いつまでも劣等感を増幅して行き、結局、最後は、全て金閣のせいにして、壊れてしまう。それは、やっぱり、美しいと思ってしまう私も、壊れているのかしら。壊れることが、美しさへ繋がる事もあるのだと、私は、若い頃に、三島の本を読んで知りましたが、今回も、それを強く思いました。何ものにも汚されずに、美しいまま、壊れてしまうことは、幸せなのかも知れません。
この舞台、本当に良かった。何日も、観た後に考えてしまうほど、心に残る舞台だったと思います。柳楽くんの溝口は、私のイメージどおりの溝口であり、劣等感の塊のように見せていて、決して、何ものにも崩されない、美しい金閣でした。そう、最後は、溝口自身が、金閣であり、自分を壊したいという気持ちで火を放ったんです。そんな美しさと強さと哀しさをまとった、溝口であり、金閣でした。
そうそう、金閣のイメージで、山川さんという伝統歌唱の歌手の方が出演されていて、金閣というものを、人間で表現していました。これが、なんとも面白くて、イイなって思いました。その声が、素晴らしく荘厳なんです。まさに、金閣でした。
私は、この舞台、すごくお勧めしたいです。今、また観たいと思っているほどです。溝口という人物は、考えれば考えるほど、色々な面があって、魅力的な人物です。その溝口が、舞台の上で動いているのを観れるのは、この上ない幸せだと思いました。ぜひ、興味があったら、行ってみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
注:画像をお借りしましたが、もし、問題があるようでしたら、直ぐに取り下げますので、ご連絡下さい。
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