舞台「太鼓たたいて笛ふいて」を観てきました。林芙美子さんという人物の歴史を初めて知りました。「放浪記」という名前だけは、”森光子”さんの代表作ということで知っていましたが、それを書いた人がどんな人だったのかということを、初めて知りました。
ストーリーは、
『放浪記』で一躍文壇の寵児に躍り出た女流作家・林 芙美子。奔放に生きてきた人生を写すが如く、原稿用紙に向かっていた。世間の風は戦争へ突入すべく、日増しにきな臭さが強まりはじめていたそんな中で、芙美子は人生の切り売りだけで小説を書くことに行き詰まりを感じていた。そして、時流にあわないという理由で出版した本が発禁処分されてしまう。芙美子につきまとい、金儲けを企むプロデューサー三木 孝は、“戦さはもうかるという物語”と芙美子を刺激、説得し、従軍記者へと仕立て上げていく。そして、内閣情報部と陸軍部から派遣され、太鼓たたいて笛ふいてお広目屋よろしくふれまわる物語を書くために、シンガポールやジャワ、ボルネオと従軍した林 芙美子が目のあたりにしたものは、国土拡大を大義名分にした、日本軍による東アジア侵略であった。戦後一転として、まるで贖罪するかのように『浮雲』や『めし』など、わたしたち普通の日本人の悲しみを、生活を、ただひたすらに書きつづけた、作家林 芙美子を描く。
というお話です。
ハッキリ言って、林芙美子さんという人に、あまり良い印象を持ちませんでした。好き勝手に、奥さんがいるような人を好きになり、アプローチして取ってしまうような女性を、好ましいと思えるわけがありません。そりゃ、才女だったのだと思いますが、いくら才能があって、頭が良くても、人間として間違っている事を平気で貫いて行ってしまうのはどうなんでしょう。周りからは、ちやほやされたのかも知れませんが、同性からは、嫌われた人だと思いました。

人間的には好まれなかったかも知れませんが、彼女の書いた文章は、その時代を色濃く映していて、時代に生きた人々が、どのような感情を持っていたのかということが、とても良く解ります。芙美子は、戦争時代、軍部からの依頼で戦争を誘発するような文章を書き続けていましたが、戦地での酷い状況を見て、自分が間違っていたという事を痛感したのだと思います。戦地から帰って、戦後、自分の考えが間違っていたのだと言う事を、文章に書き綴るようになります。

林さんのように、戦時下で、時代に流されてしまった人が沢山居たんだろうと思います。戦争は間違っていると、何となく思っていても、それを口にする事は出来ず、ただ、教えられる情報を鵜呑みにして、それを賛美するような文章ばかりを書いていたのでしょう。狂った時代だったのだと思いますが、戦後に、それを謝罪するように、沢山の文章を書き上げたのは、彼女の良心からだったのだと思います。
そんな彼女の奔放な生き方と、周りに振り回された生涯を描いている舞台でした。歌あり、コメディありで、楽しい中に、暗い戦争の影と、彼女の強い意志のようなものが描かれていて、強い女性だったんだなぁと言う事が判りました。自分の間違いを、キチンと、後から正すことが出来るというのは、本当に心が強くないと出来る事ではありません。正しいことを伝えたいと思う気持ちが、彼女の間違いに気が付かせ、自分で受け止めることが出来たのでしょう。そういうところは、素晴らしい人だと思います。

井上ひさし先生のこまつ座の舞台、いつも正当派で、舞台の基本とは何だってことを教えてくれているような気がします。新しい舞台も楽しみたいですが、昔から続いている名作と言うものも、やっぱり抑えて、観て行きたいと思います。私のような素人は、端から端まで色々な舞台を見て、自分に合っているものを探して行くことが、まず1歩なのかなと思い、色々な舞台を体験しているところです。難しいことは解りませんが、自分の心に響いてくるものが、自分の身になっていくような気がして、とても良い栄養分になります。

この「太鼓たたいて笛ふいて」は、まだ上演中なのかな。何度もやっている舞台なので、もし、この林芙美子さんと言う方に興味を持たれたら、見てみてくださいね。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「太鼓たたいて笛ふいて」 こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/program/