全米大会ともなるとレースメインで訓練している選手達がいて、彼らのスタートはとても速くてとてもそれには敵いませんでした。
だけどトラのパンピング(ボードの進ませ方)はピカイチで、あっという間に加速してゆき
みるみるうちに全員抜かしてトップに躍り出ていました。
このまま走り続ければ間違いなく1位通過だ!
と思いながら
トップを駆け抜ける姿を横目に追い撮り、カーブで姿が見えなくなり、次に見えた時はひとり、コースの中に立ち尽くしているトラがいました。
「え?どうしたの!?」
「… ゲートミスした。後ろから押されて… 」
呆然と立ち尽くすトラ。
ゴールまで滑り降り、コーチに連絡するとすぐにジャッジテントへ行ってプロテスト(抗議)しろと。
私たちは無知でした。
ゴールラインを切ってしまうと抗議は受け付けられないんです。そんなクロスのルールも知らなかった。
どう考えてもトラがトップを駆け抜け、そしてアクシデントが起きてトラはゲートの外へ押し出された。
それが事実でしたが、どうすることもできず。
トラの何が悪かったとか、ミスだとか、そんなこと何も思えなかったし言えなかった。
一緒に審判に粘って訴えるも受け入れられず
どうしてあげることもできなかった。
もっと知識を持っておければと悔み。
ゴーグルの中で涙が溢れているトラをただ抱きしめてあげることしかできませんでした。
「こういう事があるのが、スノーボードクロスなんだろうね。」
そう言いながら自分自身にも言い聞かせていました。
「だから押されても倒れないくらい、クロスの選手は体重を増やして体格を大きくするんだろうね。」
って。
ふたりでしょんぼりしながら家に帰ると、ジミーさんと良子ちゃんがいてくれて。
私たちはそれぞれ彼らと話をして、気持ちが落ち着きました。
そして2人でイズモの散歩をしました。
結果。トラの後ろを走っていた選手が表彰台の2位に上がり、トラはこの場でも充分勝てる速さだったんだと気づきました。
この負け?にはどんな意味があるのだろうって、ここから何を学べば良いのだろうって、明け方まで何度も目が覚めて悔しくて眠れない夜を過ごしました。
疲れ果てたトラは隣でぐっすり眠っていました。
出走前にひとりで黙々とハヤシワックスを塗っていた姿。
勝たせてあげたかった。
翌朝は一番メインのスロープスタイルだったから。
このまま負の気持ちを引きずってしまうんじゃないかと心配だったけど。
気持ちを切り替えて、挑みました。
気持ちを切り替えられたのは、ジミーさん良子ちゃんがいてくれた環境のおかげです。