ラグランジュ点は

三体問題の解の一つです。たとえば太陽と地球と月のように3つが属する回転系で一番質量の小さい月が、内向きと外向きの重力のバランスがとれて静止することが可能な点のことです(円制限三体問題=円:軌道の形 制限:第3体の質量が極端に小さい)。

この場合はラグランジュ点は5つ。L1:太陽と地球の間に月がある

L2:太陽と地球の外側L1の反対側に月がある 

L3:地球から太陽を挟んだ反対側に月がある 

L4:地球の公転軌道上に地球からみて60度の位置に月がある 

L5:地球の公転軌道上に地球から見てL4と反対の位置に月がある

フェルミのパラドクス

宇宙に地球型惑星があるならば、そのうちのいくつかの知的生命体(宇宙人)は地球に到達しているはずだ。今まで地球人が地球外文明の存在に気付かず、接触している証拠も無いのはなぜか?

このパラドクスの説明の一つが劉慈欣の『三体 Ⅱ』第三部です。

(第1部は8月15日に紹介済み)

 

本『三体 Ⅱ黒暗森林』 訳:大森望・立原透耶・泊功 早川書房 2020年初版

 

第二部 呪文 危機紀元8年 三体艦隊の太陽系到達まであと4.20光年

 タイラーは特攻機のような自爆攻撃をする宇宙戦闘機を考案、後に自殺。

 ハッブルⅡ管制センターは刷毛のような軌跡を発見。

 銀河系は直径10万光年、光速の1/1000の速さで1億年で横断可能。

 ∴人類より100万年早く進化した宇宙人がいれば、すでに地球に到達している

 はずである。いまだに存在の証拠が無いのはなぜか(フェルミのパラドクス)

 羅輯(ルオ・ジー)は187J3X1という呪文を発信し、その効果が判るまで冬眠。

下巻

第二部 呪文(承前)危機紀元20年 三体艦隊の太陽系到達まであと4.15光年

 ハインズとレイ・ディアスは冬眠から覚める。制御核融合の技術的ブレイクス

 ルー達成。ハインズの精神能力強化策は、精神印象(メンタルシール)を実用化

 し、堅固な信念を持つ刻印族を生む。ハインズ夫妻の冬眠。三体危機回避のため

 に恒星型水素爆弾実験を実行したレイ・ディアスは民衆に殺された。

第三部 黒暗森林 危機紀元205年 三体の太陽系到達まであと2.10光年

 羅輯(ルオ・ジー)、185年の眠りから目覚める。キラーウィルスに狙われ、昔

 ながらの生活が残る新生活ヴィレッジ5区で暮らす羅輯。

 三体文明の探査機「水滴」を調べる丁儀(ディン・イー)調査チーム。後方には

 宇宙艦隊が控えている。宇宙艦隊を攻撃したあと水滴は太陽方向へ飛び去る。

 圧倒的な水滴の攻撃力を目撃した地球では集団的精神崩壊が起きた。宇宙戦艦は

 二手に分かれそれぞれ反対方向へ航海する。ラグランジュ点で静止した水滴、太

 陽に向けて電磁波を送る。187J3X1星は微小な光粒(フォトイド)により、惑星

 もろとも51年前に破壊されていたことが判明する。

 宇宙文明の二つの公理を挙げ、これまでの出来事と絡めてフェルミのパラドクス

 を史強(シー・チアン)に説明する羅輯。距離・文明の違いによって理解不能な

 二つの文明の間では、コミュニケーションが成立せず信頼できないために(猜疑

 連鎖)、相手を認知したら相手を滅ぼすしかない。したがって自分の存在を知ら

 れないようにその痕跡を消しさる。だから、これまでは地球外文明の存在は知ら

 れなかったし、接触も無かった。

 危機紀元208年 三体艦隊の太陽系到達まであと2.07光年

 新生活ヴィレッジ5区から追い出される羅輯。葉文潔(イエ・ウェンジエ)と楊

 冬(ヤン・ドン)の墓前で死のうとするが・・・。

 

読むだけなら思いのほか取っつきやすく面白かったのですが、紹介となると、ほとほと困りました。(面白さのポイントは著者の素養がうかがえる些細な寄り道に)

ラグランジュ点(円制限三体問題も)とフェルミのパラドクスをざっとでも説明しないと肝心な点が抜けると思い、前振りが回りくどいことになりました<m(_ _)m>

クラークやハインライン、アシモフを読んでいたり、コミックなどでSF的宇宙観に慣れている人には特にお勧めです。↖私が多少とも読んでいる3人。

 

付録:ラグランジュ点上の静止観測機器 (近傍点を地球と同じ速度で移動)

L1:地球から太陽方向150万㎞ 太陽圏観測機SOHO NASAと欧州宇宙機関

L2:地球から太陽と逆方向150万㎞ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 NASA

  *150万㎞は0.01天文単位

L4:地球の公転軌道上60度 太陽観測機STEREO-A NASA

L5:L4の反対の位置 

   太陽観測機STEREO-B スピッツァー宇宙望遠鏡(赤外線望遠鏡)NASA

 

L2にあるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はこんな形